ひとくちに仲買人といっても、ピンからキリまでだが、一人前の仲買人になるにはどれくらいの期間が必要なのだろう。
「一人前の仲買人になるのは最低でも10年。俺だって30年でも半人前だよ(笑)。まずは客と顔を合わすこと。お客さんが同じ魚を欲しがっても、その人によって意味合いが違ったりする。そのお客さんの好みに合わせたものを常に用意できることが一人前の条件だね」
松崎さんは河岸歴30年を越えても、仲買人の仕事は飽きる暇がないと言う。なぜなら常に日々新しい情報を取り入れなければいけないからだ。
「昔は『明日は明日の風が吹く』ってその日のことしか考えてなかったけど、今は先の見通しを建てなきゃ仲買人としてやっていけない。明日、明後日、一週間後って先を読む。そこらへんは長年の積み重ねだね。シケが来るって、わかってるときには予め必要な魚を手配する。そのために天気図を読んだり、世界中のニュースも気にしなきゃいけない。シケのときは、漁師のほうもそのへんは心得ているやつがいて、シケが来る前に今日採れた分を半分残しておく強者もいる。シケのときのほうがかえって高く売れたりするからね。そういうやつに頼むんだよ(笑)。とにかく天災であってもお客さんに迷惑かけたらいけない。何年か前、海外で火山の爆発があった。『そんなの関係ねぇ』と思ったら、火山灰で飛行機が飛ばなくてクリスマス用のサーモンが届かなかったこともある。いろんなことを予測して事前に魚を確保するのも仲買人として大事な仕事」
昔は、腕力と勢いがあれば河岸ではやっていけるといわれた築地だが、昨今では仕入先とのコミュニケーションやマルチな世界情報が必要な時代に変化しつつあるようだ。