宇宙へ羽ばたく「こうのとり」 ――宇宙ステーションへ物資を運ぶ日本の無人補給機

「こうのとり」の未来

「こうのとり」の後継機となる改良型の「HTV-X」の想像図 Photo by 文部科学省/JAXA

「こうのとり」は今後、9号機まで運用されることが決まっている。そしてその後は「HTV-X」と名付けられた、改良型の「こうのとり」の運用に移ることが計画されている。  HTV-Xは「こうのとり」の設計を全面的に見直し、より多くの物資を積み込めるようにしたり、エンジンなどの取り付け場所を変えることで運用性を向上させたりといった改良が施される計画で、製造コストは今の「こうのとり」の約半分になり、運用コストも低減できるという。すでに今年度(2016年度)からすでに開発が始まっており、初打ち上げは2021年度に予定されている。  またHTV-Xやその技術は将来的に、ISSとは別の軌道や、月や火星へ行く際の足となる「軌道間輸送機」や、さらに無人のカプセルを積み、宇宙で実験した試料(マウスなどの生物や、新しい材料など)を地上へ回収することができる機体への発展も考えられている。  となると、誰もが期待する次の発展の形は当然、人が乗れる有人宇宙船だろう。残念ながら、現時点でそのような計画や構想はない。そもそも、ISSと地球との往復にはロシアや米国の宇宙船が使えるし、ISS以降の有人宇宙活動も、日本が単独で何かを行うという可能性はほとんど無いため、日本が独自の有人宇宙船を開発する必要性は乏しい。また、宇宙から安全に帰還する技術や、宇宙船の中で人が生活するためのシステムなど、これから開発しなければならない要素もまだ多いが、日本の宇宙予算には、その開発に割ける余裕もない。  しかし、「こうのとり」の開発と運用によって、日本は有人宇宙船につながる、技術の一端を手にすることができたのは事実である。そしてHTV-Xによって、その技術はさらに磨かれていくことだろう。  今後も着実な歩みを重ね、そしていつか時代が許し、そして求めれば、「こうのとり」が有人宇宙船という子供を連れて来てくれる日が来るかもしれない。

HTV-Xの発展構想の一つとして、無人で実験を行い、その試料を地上へ回収する無人カプセル搭載型の開発が考えられている Photo by 文部科学省/JAXA

<文/鳥嶋真也> とりしま・しんや●宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。 Webサイト: http://kosmograd.info/about/ 【参考】 ・宇宙ステーション補給機(HTV) – 宇宙ステーション・きぼう広報・情報センター – JAXA(http://iss.jaxa.jp/htv/mission/htv-6/) ・JAXA | H-IIBロケット6号機による宇宙ステーション補給機「こうのとり」6号機(HTV6)の打上げ延期について(http://www.jaxa.jp/press/2016/08/20160810_h2bf6_j.html) ・宇宙ステーション補給機 こうのとり」6号機(HTV6)の概要(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/060/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2016/07/08/1374186_1.pdf) ・HTV‐Xの開発状況について(http://www.jaxa.jp/press/2016/07/files/20160714_htv-x_01_j.pdf) ・HTV-X(仮称)の開発(案)について(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/059/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2015/07/16/1359656_5.pdf
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。 著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。 Webサイト: КОСМОГРАД Twitter: @Kosmograd_Info
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