金丸氏が弁護士事務所の経営に乗り出したのには大きな理由がある。
「私は射撃場を経営していますから、警察幹部とのつき合いがあります。また、ボランティアでタイ国家警察の通訳と観光警察のパトロール隊員もやっているのですが、中には大きな勘違いをして私に近づいてくる人がいるのです」
勘違いとは、バンコクが20年近く前の混沌とした、なんでもありの社会だと思っている日本人がいまだにいる、ということだ。
記憶に新しいのは、2015年10月にタイ東部にある歓楽街パタヤで日本人4人が覚醒剤関連で逮捕された事件だ。日本人ひとりがまず逮捕され、仲間3人が警察署を訪れ賄賂を手渡そうとしたところを逮捕された。そのときの動画が世に出回っているのだが、半笑いで余裕の態度で訪れたものの、返り討ちにされていた。タイはそんな世ではなくなってきたのだ。
適当にカネさえ払えばなんでもできると勘違いをする輩が少なくない上、金丸氏の人間関係を勝手に魅力的に感じるどうしようもない日本人が少なからずいると嘆く。日々、金丸氏の噂を聞きつけた日本人が「ビザの超過滞在で捕まった」「飲食店無許可経営で警察に踏み込まれた」などといった自業自得の案件をでヘルプを持ち込んでくる。金丸氏のポリシーは一貫していて、そういった案件には手を貸さない。
「カネでなんとかしたいのであれば弁護士を雇って対応するしかありません。私はタイで幸せに暮らしたいなら品行方正でいなければならないと思っています。自分の不注意で助けてくれと言われても困ります」
特にボランティアとして警察と関わる金丸氏としては常に中立の立場でいなければならない。知人がトラブルに巻き込まれて警察沙汰になった場合でさえ、助けたいのは山々の中、金丸氏は警察側から通訳を依頼されても断ってしまうほど中立を貫く。
仮に金丸氏が手助けをするとしよう。しかし、実際に処理を行うのは警察の人々で、その案件に対して警察高官は方々でなんとか処理をするように頭を下げることになる。タイは人間関係が日本よりもシビアで、ちょっとした借りを作ってしまうと数年後に大きなトラブルに駆り出されてしまうこともあり命取りなのだ。特に大きな権力を手にできる警察幹部や軍幹部、政治家などは些細なマイナスポイントがあとで大きく響くのだ。それに相当するほどの見返りがあればいいのかもしれないが、ビザや経営許可証も取れないような無能な日本人は大概恩義を無碍にする。
「かといって、同胞ですからね。放っておくわけにもいきませんので、それであれば外国人との問題にも強い弁護士を紹介しますから、正統的に問題解決をしてください、という意味で弁護士事務所経営にも乗り出したというわけです」