日本の「新幹線輸出」が決して楽観視できない3つの事情

photo by nubobo on flickr(CC BY 2.0)

 このところ、鉄道の“輸出”にまつわるニュースが目立っている。

 5月にはタイ、7月にはインドで日本の新幹線方式による建設が事実上決定した。立て続けに受注が決まったことをみると、国家をあげて推し進めている“新幹線の輸出”は順調そのもののように思えるが、決してそうではない。

 9月4日には、日中で争っていたインドネシアの新幹線計画への参入が“白紙に戻った”というニュースが話題になったし、その他の国でも「実際はかなり苦戦している」(鉄道専門誌記者)という。

「これまで新幹線方式の輸出は、2007年に運行を開始した台湾高速鉄道があるだけです。ただ、これは100%日本の新幹線方式を採用したわけではなく、一部システムで欧州の方式を採用した日欧混在システム。つまり、日本は世界一安全で快適な新幹線としてアピールしていますが、世界ではそれほど評価されていないというのが現実です」

アピールポイントとニーズのズレ


 日本の新幹線の“ウリ”といえば、開業以来半世紀にわたって脱線、衝突、設備破損といった車両や設備の故障を原因とする事故による乗客の死傷者がゼロという極めて高度な安全性(※1995年の三島駅における転落死亡事故はある)。さらに、1列車あたりの平均遅延時間が1分に満たないという定時運行力も、しばしば関係者が胸を張るポイントだ。ところが、世界的にはこうした部分への評価が必ずしも良くないという。あるJR旅客会社の幹部は、次のように話す。

「新幹線の視察に来た海外の要人に対し、日本の関係者は必ず『これだけ高頻度で運転していても、事故もないし平均1分も遅れません』とアピールする。でも、自慢された当の相手はポカンとしていることの方が多いんです。そもそも海外では鉄道は遅れて当たり前のもの。1分以下の遅延時間に収めるために膨大なコストを掛けることが理解できないんです。さらに、安全性に関しても軽視しているわけではないですが、日本ほどの高頻度運行を考えていないため、ピンと来ないんでしょう」

 確かに、5分に1本のペースで走りながら事故も遅れもない日本の新幹線の“安全・安定”は誇るべきもの。しかし、そこまでの水準を求めている国はほとんどないのだ。一方で、諸外国が重視しているのはコスト面。高頻度運行を前提としている日本の新幹線と同じ設計では、大赤字を垂れ流すことは火を見るより明らかだ。むしろ、運行頻度を少なくし、さらに多少の遅れもやむなしとした設計でどれだけのコストダウンが図れるのかが重要。つまり、日本のアピールポイントと海外の重視する点がずれているというわけだ。それでは輸出実績が伸びないのも無理はない。

日本の技術を「盗んだ」中国メーカーの台頭


 そしてさらに、ここに来て中国が強力なライバルとして台頭。これまで新幹線輸出のライバルといえば、シーメンス社(ドイツ)・ボンバルディア社(カナダ)・アルストム社(フランス)の鉄道BIG3。そこに、中国が営業距離1万kmという高速鉄道大国として殴り込みをかけたのだ。

「そもそも中国の高速鉄道は欧米や日本の技術供与を受けて導入されたもの。それを自国の技術として輸出することは本来ご法度なのですが、そんなもの中国には関係ありません。タイの高速鉄道計画では、タイ米の大量輸入と引き換えに新幹線輸出を持ちかけるなど、なりふり構わない手段で受注を勝ち取ろうとしています」(前出の記者)

 結果的にタイは日本が勝利したものの、中国は諸外国が高速鉄道を計画するにあたって第一に提携を模索する候補となったことは間違いない。

 中国の高速鉄道といえば、2011年に40人が死亡する事故が記憶に新しい。日本人にとっては「安全や人命を軽視した高速鉄道」という印象が強いかもしれない。しかし、実際に中国の高速鉄道を視察した関係者によれば、「中国の鉄道は世間で思われるほど酷くはない」と話す。

「あの事故は鉄道運行の基本を無視したことによる人為的なもの。それはまさに中国らしいとも言えるのですが、車両や軌道など高速鉄道のシステムとしての安全性が揺らぐようなものではありませんでした。実際に現場を見ても、軌道面や高架橋の強度は東海道新幹線を遥かに上回っていますし、車両も極めて安全性の高い設計。“中国の新幹線だから安全じゃない”は、それこそ日本人だけの妄想です」

 もちろんコスト面では中国に叶うわけもない日本の鉄道界。敢えて辛辣な物言いをさせてもらえば、今まで日本人が世界一と信じてきた新幹線の技術は、もはや世界的に見れば世界一でも何でもなく、中国にすら遅れを取りかねない段階にあるのだ。
 さらに、国内の足並みの乱れも無視できない。

リニアと新幹線。JR内での足並みの乱れも


「JR東海はリニア建設に注力しており、輸出するにしても新幹線ではなくリニアが優先。すでに北米への売り込みを進めています。一方、JR東日本は新幹線方式を輸出したい意向が強い。もともとJR各社は技術協力などが進んでおらず、国内ですらガラパゴス化しています。それが海外に受け入れられるかどうかとなると、微妙ですよね」(前出の記者)

 今後4年で約7兆円にも及ぶとみられるアジアの鉄道市場。そこにどれだけ食い込んでいけるかが、日本の鉄道界の未来を握っていると言っても過言ではない。鉄道車両メーカーの営業担当者は「国内はもはや飽和状態。大規模な市場のある海外で結果を出さなければ先はない」と断言する。タイ・インドと輸出交渉に勝利したが、本番はまだこれから。日本の鉄道技術が“枯れた技術”になるのを防ぐためには、中国に対抗しうるアピールポイントを見出し、足並みを揃えて輸出交渉に取り組んで欲しい。

<取材・文/境正雄 photo by nubobo on flickr


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