2020年東京五輪前暫定開業を断念。羽田空港アクセス新線計画が及び腰になってきたわけ

モノレール

モノレールや京急は乗り換えが必要ではあるが……

 4月5日、JR東日本が羽田空港アクセス新線(以下羽田新線)の2020年東京オリンピック前暫定開業を断念したという報道があった。(「羽田空港アクセス線」、2020年東京五輪までの暫定開業を断念http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00289664.html

 現時点ではまだ構想段階で具体化には至っておらず、工期を考慮するとオリンピックに間に合わせることは難しいということなのだろう。ただ、羽田新線自体は諦めておらず、2024年の全線開業を目指すという。

 このJR東日本の構想にかぎらず、京急蒲田駅と東急蒲田駅を接続して空港アクセスを良くする“蒲蒲線”や東京モノレールの東京駅延伸など、羽田空港へのアクセス線の構想はいくつも提唱されている。だが、この「ブーム」とも言える現状に、東京の鉄道事情に詳しい専門誌の記者は異論を唱える。

「ハッキリ言って今の“羽田新線”構想乱立は東京オリンピックバブルに湧きたっているだけ。新国立競技場ですら建設費が高過ぎるとして計画の見直しが進められているというのに、鉄道業界だけが新線新線と騒いでいるというのは異常です」

 では、果たして羽田新線にユーザーサイドの需要はあるのだろうか。国土交通省が発表した平成23年度の旅客流動調査によると、羽田空港利用者の交通手段はモノレールと京急をあわせ58%。21%が空港バスで、13%が自家用車となっている。この鉄道利用率は全国の空港を見てもトップの数字で、博多駅から地下鉄で10分という好アクセス空港・福岡空港をも上回っている。

「需要があるかないかで言えば、間違いなくある。モノレールにせよ京急にせよ、今の羽田アクセス鉄道はいずれも浜松町や品川で乗り換える必要があります。それが、新線によって渋谷や新宿などから乗り換えなしで行けるようになれば、それを歓迎する利用者は多いでしょう」(前出の記者)

 しかし、一方でその需要が数千億円とも言われる建設費に見合ったものかというと、疑問も多い。羽田空港の利用者は発着数の増加や国際線ターミナル完成などの影響もあってここ数年右肩上がり。一昨年には初めて7000万人も超えている。しかし、国内線に限ってみれば利用者はピーク時の2007年の水準には戻っていない。今後日本の人口減少を想定すれば、更に大きく利用者が伸びていくとは考えにくいのが現状だ。また、発着枠もすでに限界を迎えており、発着数を増やすことによる利用者増も難しい。

 つまり、羽田新線構想は、限られたパイの中での空港利用者の奪い合いということなのだ。前出の記者は言う。

「京急空港線や東京モノレールの輸送力が限界というのであれば、新線の必要性もわかります。しかし、列車本数を増やす事こそ難しいかもしれませんが、混雑状況などを見る限りまだまだ余力はある。オリンピックに向けて沿線開発が進むことも想定されますが、それでも輸送力が危機的状況とは到底言えません」

 ではなぜJR東日本は新線構想をぶちあげたのか。その答えのひとつとなりそうなのが、“空港リムジンバスへの対抗”という考えだ。

 今年3月、首都高中央環状線が全線開通。これにより、新宿から羽田までの所要時間が以前の40分から20分と半分に短縮されたのだ。現状、新宿から羽田空港まで鉄道を利用しようとすれば、40~50分はかかる。それと比べれば、バスを使ったほうがはるかに速いというわけだ。

「想像にはなりますが、JR東日本はそこに危機感を抱いたのでしょう。モノレールでも京急でも、鉄道利用ならばJRから乗り換えることになる。でも、バス利用者が増加すればJRの利用者がごそっと減ってしまう。そこを何とか奪い返すために、乗り換えなしで空港にアクセスできる羽田新線の構想を考えたのだと思われます」(前出の記者)

 まだ首都高中央環状線全線開通からまもないため、全線開通によって羽田空港へのバス利用者がどれほど増加しているの定量的な数値は出ていないが、マイカー利用者も考慮すれば羽田アクセスは鉄道よりも車……となってもおかしくはない。JR東日本の羽田新線構想は、利便性を高めて新たな需要を掘り起こすというよりは、既存の利用者をキープするための消極的な構想に過ぎないのではないだろうか? だとすれば、それでは、数千億円の建設費を投じる意義にも疑問が生じ始めたのではないか?

「実際、3月に行われた交通政策審議会の『東京圏における今後の都市鉄道のあり方に関する小委員会』では、羽田新線について具体的な議論はほとんどなかったそうです。これまで度々空港アクセス線の構想が提案されてきた委員会ですが、それが若干消極的になっている。2020年の東京オリンピックに間に合わない現実が見えてきた以上、バブリーな新線構想への意欲が薄れているのかもしれません」(前出の記者)

 国立社会保障・人口問題研究所による将来人口推計でも、2020年までは東京都の人口は増加するものの、それ以降は減少に転じると見られている。さらに地方と中央との格差拡大も問題視され、安倍内閣は“地方創生”を旗印のひとつに掲げている。そんな中で、数千億円もの大金を投じての羽田新線構想。果たしてどうなるのか、今後の動向に注目したい。

<取材・文/境正雄>


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