「肉フェス」食中毒騒動でわかった「鶏生食」の恐ろしさ――ギラン・バレー症候群との関係も

 さらに、2008(平成20)年度から3年計画で①生食用食鳥肉の成分企画目標・加工基準目標の策定」「②生食用食鳥肉の食中毒原因菌汚染実態調査の実施」「③食鳥肉取り扱い業者等に対する衛生講習会等の実施」を行ったが、カンピロバクターの汚染率は食肉販売店で45%、飲食店で28%という結果が出たという。  これほど「生食」への啓蒙に熱心な宮崎ですら汚染率をゼロにできていない。大量生産の現場では、生産者→解体場→精肉店→飲食店まで、どの段階で汚染が起きてもおかしくないのだ。

無知が食文化を殺す

 光明がないわけではない。たとえば兵庫県・丹波の高坂和鶏などは、処理後一ヶ月熟成させても食中毒菌が検出されないという。その秘訣は飼料を含めた飼育環境と、解体時の処理にある。普通の鶏では腸が切れてしまうような作業でも、いい飼料で育てていると腸が破れない。そういう丈夫な鶏を育てたうえで、身肉がカンピロバクターに汚染されないような解体を行う。生で食べられる鶏も、ありえなくはないのだ。  だが、まだこうした鶏はごくわずか。先日もふつうのチェーンの居酒屋のお通しで「鳥刺しでーす!」と生の薄造りが供されて、まさしく度肝を抜かれた。  無知が積み重なれば、当然事故は起きる。その先に待っているのは、規制の強化だ。一部の生産者の苦心惨憺など、無知の一撃でいとも簡単に崩壊する。  現代では外食は日常のものになった。食中毒が発覚すれば、医師には保健所への報告義務が発生する。誰もが拡散ツールを手にしたことで、人の口に戸は立てられなくなった。「食」を伝えるとき真摯に向き合う以外ない。そして食文化は生産者から食べ手まで、そこに関わるすべての者の調和を積み重ねた先にしか成立しない。自らが扱うものや口にしているものは何か。 「知らなかった」では済まされないこともある。 <文/松浦達也> まつうら・たつや/東京都生まれ。編集者/ライター。「食」ジャンルでは「食べる」「つくる」「ひもとく」を標榜するフードアクティビストとして、テレビ、ラジオなどで食のトレンドやニュース解説を行うほか、『dancyu』などの料理・グルメ誌から一般誌、ニュースサイトまで幅広く執筆、編集に携わる。著書に『家で肉食を極める! 肉バカ秘蔵レシピ 大人の肉ドリル』(マガジンハウス)ほか、参加する調理ユニット「給食系男子」名義で企画・構成も手がけた『家メシ道場』『家呑み道場』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)はシリーズ10万部を突破
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