尋常ならざる我が国の言論状況――【シリーズ植村隆の闘い 第1回】

植村氏への憎悪を扇動したあるコラム

 法廷で植村氏が読み上げた意見陳述書の内容は、あまりにも凄惨で、氏と氏の家族がいかに非道な目にあわされてきたのかを物語る。  その中から少し引用しよう(全文はこちら http://sasaerukai.blogspot.jp/2016/04/blog-post_60.html
“脅迫状はこういう書き出しでした。 「貴殿らは、我々の度重なる警告にも関わらず、国賊である植村隆の雇用継続を決定した。この決定は、国賊である植村隆による悪辣な捏造行為を肯定するだけでなく、南朝鮮をはじめとする反日勢力の走狗と成り果てたことを意味するものである」 5枚に及ぶ脅迫状は、次の言葉で終わっています。 「『国賊』植村隆の娘である○○○を必ず殺す。期限は設けない。何年かかっても殺す。何処へ逃げても殺す。地の果てまで追い詰めて殺す。絶対にコロス」” “娘への攻撃は脅迫だけではありません。2014年8月には、インターネットに顔写真と名前が晒されました。そして、「こいつの父親のせいでどれだけの日本人が苦労したことか。自殺するまで追い込むしかない」と書かれました。こうした書き込みを削除するため、札幌の弁護士たちが、娘の話を聞いてくれました。私には愚痴をこぼさず、明るく振舞っていた娘が、弁護士の前でぽろぽろ涙をこぼすのを見て、私は胸が張り裂ける思いでした。”
 意見陳述の時間は限られている。ここで植村氏があげた脅迫状の事例は氷山の一角に過ぎない。このほかにも、脅迫状は多数送られてきており、北星大学に入電した脅迫電話に至ってはその数倍に上るだろう。もはや尋常の沙汰ではない。  この差別的意図を含んだ憎悪を煽ったのは、櫻井よしこ氏に他ならない。  植村氏の意見陳述書にはこうある。
“私は、神戸松蔭女子学院大学に教授として一度は採用されました。その大学気付で、私宛に手紙が来ました。「産経ニュース」電子版に掲載された櫻井さんの、そのコラムがプリントされたうえ、手書きで、こう書き込んでいました。 「良心に従って説明して下さい。日本人を貶めた大罪をゆるせません」  手紙は匿名でしたので、誰が送ってきたかわかりません。しかし、内容から見て、櫻井さんのコラムにあおられたものだと思われます。”
 かくの如き脅迫状で教授採用の人事事案を左右する神戸松蔭女子学院大学の定見のなさは別途非難しよう。しかし、まずは「このような前近代的ともいうべき尋常ならざる事態が出来しているのが現在の日本である」という事実を直視したい。そしてその事実こそが、ケイ氏をして「日本の報道の自由を巡る懸念はより深まった」と言わしめるものであり、「国境なき記者団」をして「報道の自由ランキング」における日本の地位を下げさせるものに他ならない。  次回は、同じ法廷で櫻井よしこ氏が読み上げた意見陳述書の内容に触れる。  おのずと「わが国の言論の歪さ」が浮き彫りになるであろう。 <文/菅野完(Twitter ID:@noiehoie)> ※菅野完氏の連載、「草の根保守の蠢動」が待望の書籍化。連載時原稿に加筆し、『日本会議の研究』として扶桑社新書より発売されます!
すがのたもつ●本サイトの連載、「草の根保守の蠢動」をまとめた新書『日本会議の研究』(扶桑社新書)は第一回大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞読者賞に選ばれるなど世間を揺るがせた。メルマガ「菅野完リポート」や月刊誌「ゲゼルシャフト」(sugano.shop)も注目されている
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日本会議の研究

「右傾化」の淵源はどこなのか?「日本会議」とは何なのか?