「FACEBOOK市長」を踏み台にする海千山千の面々 ――山本一郎【香ばしい人々returns】

山本一郎

山本一郎

「ひまじんうんこ」などの暴言を市民に投げかけ訴えられるなど、数多くの面白逸話で名高い武雄市長の樋渡啓祐さん。かねてブログに書いたとおり、この樋渡さんを「FACEBOOK市長」として世に出してしまったA級戦犯としてメディア界隈で語り継がれる某日経BPの皆さんからご紹介いただいてその人となりをわずかながら知る私としては、彼が自治体改革の星として一部好事家やあまりきちんと物事を調べない人たちの間で祭り上げられているのを見て素晴らしいと思うわけです。  なぜこんな緩い話を冒頭に持ってきたのかというと、さすがに見切り発車で行った市政の数々が徐々に効果切れの瀬戸際にあるようでして。樋渡市政を見て「それは問題だろう」と思った人々からの情報公開請求が武雄市他自治体に乱舞してそろそろ臨界点にさしかかっており、バブル崩壊前夜のような狂乱になっているようにも見えるからであります。  その一方で、この樋渡さんご自身の講演にて自らの口で「アスペルガー市長」と標榜、ある意味でやれるだけやってやろうという精神で自治体改革で己の思う理想の市政を実現していくという件については物凄くピュアに取り組んでいると思うんですよ。もう少し周りにまともな人がいれば、きっと凄い自治体改革になったんじゃないかと思うわけですが。惜しいことです。  その惜しい最たるものが、自治体自ら通販を行い地元の名産品を東京他巨大消費地で売れるようにしましょうということで始めた「FB良品」シリーズ。紆余曲折あるので興味をもたれた方は有志が作成している問題指摘のサイトを見ていただければ充分です。良く調べて書いてあります、特に付け足すこともないぐらい、立派な内容です。 ◆これが樋渡市長(@hiwa1118)の目指す #JAPANsg の「流通革命」だ! #武雄市問題 https://todotan.com/blog/?p=16285 ◆あれから4ヶ月… #JAPANsg の特商法違反は是正されたのか?#武雄市問題 https://todotan.com/blog/?p=16772  その後、この武雄市方式の自治体通販の仕組みを使って各自治体が通販を始めるわけなんですけれども、これがまた惨敗。というのも、実際にこの武雄市で出入りしていた業者がそこまで通販事業に精通しているわけでも売り場をきちんと確保しているわけでもなかったということで、自治体が少しでも地域振興を兼ねた産業育成をしたいという願いを踏み潰すような無能ぶりを晒すことになってしまいました。 ◆04:FB良品 Japan Satisfaction Guaranteed(ジャパン・サティスファクション・ギャランティード) https://sites.google.com/site/takeoproblem/fb-liang-pin  この一事のみならず、武雄市図書館問題や武雄北方工業団地企業誘致問題、武雄市民病院問題など、さまざまなものがこの人口5万人ほどの市で起きてウェブの一角で話題になっているのですから、これはこれで凄いことです。  この無様な市政ではまずかろうということで、見かねた政府もそろそろ問題に気づいて調べ物を始めたようであります。ただ、逆の見地からしますと、樋渡さんほどの確信犯的独裁者が市政の先頭に立って改革を行ったところで、実際にはたいした成果がなかなか挙げられない状況があるのは間違いありません。自治体改革と一口に言えば凄そうだけど、うまくいかないのには何らか別のところに理由があるんじゃないかと思うわけです。というのも、確かに手続き論としては樋渡さんは話になりませんが、ただ市長として衰退一途の地方自治体をどうにか盛り上げていこう、外の力を使いながらより良い環境にしていこうという気持ちは強かったんだろうと外からは感じます。  ところが、実際に彼の周りに自称ブレーンとして取り巻いたのは微妙すぎるビジネスマンたちであります。そして、組んだビジネスパートナーといえばCCC増田宗昭社長のように図書館に食い込んで新しい自治体喰い事業を考えるに当たって武雄を踏み台や実験場にして実績作りをし他の市町村に売り込んでいく気満々の人々ばかりであります。もともと図書館は黒字を目指して設置・運営するものではありませんが、PPP、PFIの観点から見て微妙といわざるを得ない事例になっているのが興味深いわけです。何しろ、CCCの投資額は約3億円とされているものの、武雄市から謎の「新図書館空間創出業務委託料」という項目で約1.3億がバックされており、要するにTSUTAYAを武雄市に呼び込むために無理矢理な予算を組み込んで働きかけ来てもらっている、というのが現状です。どういうわけか書店やカフェ、レンタルDVDで来場者を呼び寄せ、図書館の入館者数としてカウントして「図書館大成功!」とか言っております。  その結果が、武雄市からの恒常的な人口流出と産業基盤の低迷です。樋渡さんがどこぞで「武雄市図書館の効果で人口が増えた」と豪語して行政学方面のお歴々を苦笑させておりましたが、いや、確かに宣伝効果はそれなりにあったのです。20億でも30億でもあったのでしょう。しかし、図書館は観光名所ではなく、産業ではなく、雇用創出の場でもありません。うまく宣伝されたところで、売るモノやサービスがなければ有名になっただけで実入りがないのです。騙された自治体からの視察はあるかもしれませんが、他の地域の平均と同じように、武雄市は人口を2年間で3%程度減らしてしまっています。  これだけ騒いでおいて、これといった成果を挙げられていないのは、武雄市民が駄目だとか、樋渡さんがいかんというより、それだけ日本の地方というのが困窮せざるを得ない状況なのだということの現れでしょう。実際、サンプリングで武雄市民の市政アンケートをとってみると(ただし実施は2013年10月から11月、サンプル数は243件)、目立った意見の最大公約数は「市政には期待をしていないが、放っておいても良くなることはないので、いまの市長にはできる限りのことをしてもらって良い結果が出るのを待つしかない」というような内容です。  さんざん目立っておきながら実態が乏しいのではこのまま樋渡さんに暴れられ続けても困るわけで、現在教育で打っている博打がうまくいかないようですとさすがに放置はできない状況に追い込まれることでしょう。そのつもりで成果の出る改革に向けて樋渡さんには邁進していただきたいと切に願うところであります。  佐賀と言えば、選挙区こそ武雄とは違いますが我らが原口一博さんという稀有なネタキャラ、もとい人材を輩出した、懐の広い地域です。面白い人を発掘して仕事を任せてみる度量の深さに、溢れ出る感動の涙を禁じ得ません。 <文/山本一郎> やまもといちろう●1973年東京都出身。アルファブロガー。ネット業界やゲーム業界に精通し、投資業務とコンテンツ開発をメインにWebで数々の評論活動などを行う。イレギュラーズアンドパートナーズ株式会社代表取締役。最近では子宝にも恵まれ、仕事と家庭を両立させつつも、さらにシミュレーションゲーム、プロ野球の応援などにも精を出す。