スーパーで買うイチゴは、なぜ甘くないのか?

 スーパーに行くと、イチゴの真っ赤な色が目に飛び込み、甘酸っぱい香りが鼻孔をくすぐる。誘惑に導かれて、ついカゴに入れてしまう。だが、甘味の強い“完熟イチゴ”と出会うことはめったにない。せいぜい糖度は10~11度で、13度以上のものにはなかなかお目にかかれない。それはなぜなのか。

スーパー店頭にあるイチゴのほとんどは、完熟前に早摘みされたもの

無肥料・無農薬(自然栽培)のイチゴ作りに挑戦している農家はごくわずか。愛知県豊田市の農家・野中夫妻が手がけた自然栽培の“甘熟いちご”は、赤いルビーのように輝いていた

 あるスーパーの店員がその理由をこっそり教えてくれた。 「イチゴはとてもデリケートな果物で、購入直後の見た目が保てるのはせいぜい翌日まで。赤い実の先端からすぐに傷みはじめ、食べるのは購入3日後までが限度だと思ってください。傷みやすいのはなぜかって? それはね、イチゴという植物が持つ植生なんです。イチゴはいち早く実を崩して芳香を発生させ、虫や鳥に実を食べさせてタネを運んでもらうため、完熟するまでの時間が短いんです」  店頭に並んでいるイチゴの多くは、完熟前に早摘みされたイチゴだったのだ。それならば、メロンのように買ってからしばらく待って追熟させればいいのではないか? 「残念ながら、イチゴはリンゴやメロンのように追熟しません。収穫の時点で味が決まってしまいます。収穫時期と食べる時期にズレがあっても、味や品質に大きな影響はない。そのため、イチゴは食べごろになったときに収穫しないとおいしくないんです」  こう説明するのは、山梨県甲府市の郊外で観光イチゴ園を夫婦で営む出井茂さんだ。出井さんは、農地を汚し、しかも温室効果ガス発生の原因となるチッソ肥料を削減するため、悪戦苦闘しながら無肥料・無農薬栽培(自然栽培)を続けている。笛吹川にほど近い出井さんのハウスを訪ねると、真っ赤に熟したイチゴをごちそうしてくれた。
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無肥料のイチゴは完熟状態で出荷できる
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希望のイチゴ

難題に挑む農家・野中慎吾の、試行錯誤の日々を描く