人工衛星打ち上げビジネスで始まった価格破壊。イーロン・マスクの「スペースX」の挑戦

スペースXを生み出した米国の宇宙産業の下地

ファルコン9ロケット photo by SpaceX

 設立間もない会社が、ロケット開発でこれほどの急成長を遂げることができた理由は、米国の宇宙産業の裾野が広いこと、そして民間でできることは民間に任せるという下地があったことが大きい。  スペースXは設立後、まず手始めに、米国内のロケットエンジン企業などから優秀な人材を引き抜いている。米国は長年、アポロ計画やスペースシャトルなどを行ったことで宇宙産業が育ち、優秀な技術者が多数存在していた。母数の大きさ、そして米国に根付く開拓者精神も相まって、その中から「NASAや大企業ではなく、新進気鋭のベンチャーで自分の腕を試したい」と考える者が出てくるのは自然なことだった。  たとえば同社の副社長を務めるトム・ミューラー氏は、かつてTRWというロケットエンジンで有名な会社でNASAの次世代ロケット向け新型エンジンの開発などを手掛けており、また自宅でも趣味でエンジンの開発に勤しむなど、根っからの「ロケット野郎」だった。  つまりスペースXはまったくのゼロからスタートしたわけではなく、それまでに米国が手厚く育ててきた宇宙産業の資産を元手としている。  また、かつての宇宙開発は、国がその威信をかけて行うお祭り騒ぎのような大事業だった。しかし1980年代から、米国では国防総省やNASAが民間企業に補助金を出してロケットや衛星の開発を任せるなど、民間を育てる施策を多数行っていた。

同社の当面の最終目標は火星の有人飛行、そして移住である。 photo by SpaceX

 こうした背景から、米国ではこれまでにも多数の宇宙ベンチャーが生まれている。もちろん夢破れた企業も多いが、うまく立ち回った数社は生き残り、そしてそのひとつがスペースXだったのである。  スペースXは現状に満足せず、ロケットのさらなる高性能化や、有人宇宙船の打ち上げ、さらには火星への有人飛行など、大胆な構想を次々と発表し、開発を続けている。同社の今後の動向に注目したい。 【参照】 ・2014 Commercial Launch & Satellite ContractsCompany | SpaceXFalcon 9 | SpaceXCapabilities & Services | SpaceXLaunch Manifest | SpaceX <取材・文/鳥嶋真也> とりしま・しんや●宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発のニュースや論考などを書いている。 Webサイト: http://kosmograd.info/
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。 著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。 Webサイト: КОСМОГРАД Twitter: @Kosmograd_Info
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