農産物の輸入自由化の動きが加速するなか、新たな時代を見すえ、無肥料・無農薬栽培(自然栽培)に取り組む農協が増えている。JAはくい(石川県羽咋市)やJA加美よつば(宮城県加美町)などだ。
『奇跡のリンゴ』で知られる自然栽培農法の第一人者・木村秋則さんの指導のもと、6年前から自然栽培のコメづくりに挑んでいる。
「50年後の社会は『あなたまだ農薬・除草剤を使っているの?』っていう社会が来ると思います」と講演で語る木村秋則さん。
これまで、農家に肥料や農薬を売って手堅く利益をあげてきた農協が、なぜ減収につながる「自然栽培」に乗り出すのか。
そこには、「本当に安全で安心できる農産物を作り出すことが、日本の現状を打破することにつながる」との強い危機感があった。
だが、農薬を使わないことへの最大の懸案が残っていた。水田内の除草だ。木村さんの助言をもとにタイヤチェーンを活用した独自の「チェーン除草」を実施。発芽まもない雑草を取り除き、懸案を無事クリアした。
JAはくいのある能登半島は、本州最後のトキの生息地であった。国の特別天然記念物トキのエサは「ドジョウ」。戦後、化学農薬や化学肥料に依存する農業が盛んになるなか土壌汚染が進んで激減、1970年、トキもわずか1羽になり、保護されて姿を消した。
こうした苦い経験と反省から再びトキが大空を羽ばたく「昔の里山」の復活を夢みて、JAはくいの自然栽培米への挑戦は始まった。そして3年目の2013年、そのときがきた。「わずか3枚の自然栽培の田んぼを選ぶようにトキは降りた」。木村さんは、このエピソードを講演などで胸を張って披露する。
岡山県でも自然栽培は裾野を広げている。NPOとJAグループ岡山が連携、毎年、栽培面積を増やしているのだ。木村さんはこう力説する。
「(安価な農産物が海外から大量に入ってくる)TPP(環太平洋経済協定)に対抗するには、自然栽培しかない。世界にないこの安全・安心な栽培法を広めていけば、打ち勝っていける」
取材・文/田中裕司(ノンフィクションライター。著書に
『希望のイチゴ~最難関の無農薬・無肥料栽培に挑む~』など)