欧州で密かに広がる「ダイエットドラッグ」。その恐怖の実態

体内が文字通り「燃えて」しまう最凶ドラッグ

 果たして、このDNP、どのように作用するのか。  通常、人体が何らかの「運動」を行う際にはATPという物質がエネルギーとなる。これは体内にはわずかしか貯留されていない。しかし、体内のATPが使われて枯渇すると、細胞内のミトコンドリアがグルコースや脂肪酸なりを酸素と反応させてATPを作り出す。この働きがあるから有酸素運動が脂肪を燃やすといわれるわけである。そしてATPが体に十分にある状態になればミトコンドリアは脂肪酸やグルコースの分解が滞ることになる。それゆえ動かないと痩せないわけだ。  しかし、DNPが体内に入るとどうなるか。細胞が脂肪酸やグルコースを酸素と反応させてATPにする回路をシャットアウトしてATPを産出させずに脂肪酸やグルコースを分解させることになる。要するに、体を動かさずともどんどん脂肪酸が分解されていくわけだ。そして、ATPを生み出す代わりに熱を発生させる。この熱が曲者で、DNPを摂取するとどんどん体温が上がってしまうことになる。ある死亡事例ではなんと43度まで体温が上昇していたことがあるほど。  昨年、このDNPの「ダイエット薬」を摂取したことで亡くなったイギリスの21歳の女子大生、エロイズ・パリーの死について、彼女の母親は「内側から燃やされた」と表現している。急激な体温上昇によってまさしく内側から「内臓を煮た」ような状況になってしまうのだ。  2001年にこのDNPのダイエット薬を使用したことがあるというアメリカ人ボディビルダーは言う。 「他のダイエットサプリとは比べ物にならないほど劇的だった。効き目も、副作用も、だ。飲んだら四六時中、どんなに寒くても汗が止まらなくなった。しかも、ジムに行くのはおろか、日常の動作さえもしんどいほどにだるい。喉の渇きも酷く、毎晩寝汗でシーツを変えなくてはならないほどだった。DNPを使うことは、痩せるか限りなく死に近い病院行きか、どっちかを選ぶサイコロを振るようなものだと思った。正しい食事法を身につけて今では、絶対に使いたくない」  もちろん、摂取過多による急死だけではない。発がん性も認められている上に、油溶性であるがために体内に蓄積しやすく、いかに「死なない」レベルで摂取できたとしても長期的に見れば確実に体が蝕まれるのである。  恐ろしいことに、このDNP配合のダイエット薬は、それと表記していないものもあり、知らずに摂取してしまう危険性もあるという。海外通販サイトなどで販売されているサプリメントなどには手を出さないほうが無難だろう。  これで、「飲むだけで痩せる」というのが、如何にハイリスクとトレードオフなことかおわかりになったろうか。派手な宣伝文句だが効き目がない日本のダイエットサプリなどまだかわいいものだと言えなくもないが、間違いなくそんなものでは「飲むだけで痩せる」なんてことはないのである。 <取材・文/HBO取材班 photo by frolicsomepl on pixabay(CC0 Public Domain)>
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