現地流アレンジなど不要! タイ人CEOが語る、タイ人による日本ブームの傾向

「本物」を食べたいタイ人が増えている

タイの「フジヤマ55」をFC展開する「メグミグループ」のCEO、ウィチアン氏

 タイの「フジヤマ55」をFC展開する「メグミ・グループ」は、元はアパレル関係であった。ここで成功をおさめたのち、飲食にも進出し、「フジヤマ55」のほかには居酒屋も経営している。同社のCEOであるウィチアン氏は、今年40歳の実業家。日本在住経験がないにも関わらず、日本語が堪能な人物だ。日本旅行の際「フジヤマ55」の味に出会い、タイで出したいと考えたのがきっかけだという。 「今のタイは日本旅行ブームです。日本で食べた本物の味をまた食べたいというタイ人が増えているので、日本人だけのエリアで出す必要はありません」  日本は2013年7月からタイ人の15日を超えない日本滞在に対して短期査証の免除を実施している。その影響もあって2012年は28万人程度だったタイ人の日本入国者数が2013年は約48万人、2014年には68万人を突破している。この日本ブームは富裕層だけではなく、中流層にも浸透しているのだ。 「給料が2万バーツ(約6.6万円)程度の会社員もがんばってお金を貯めて日本旅行に出かけています。当然、またすぐに行くことはできないので、タイ国内で日本の味を楽しみたいという声が高まっている。ですから、そういった層が暮らす郊外でも集客力になんら問題はないのです」

日本人在住者の多いエリアに出した1号店。それでも日本人とタイ人客の割合は6:4と意外にタイ人が多い

 ウィチアン氏は逆にかつてのモノマネのような和食店は今は通用しないという。よくタイに進出するラーメン店はタイ人顧客に合わせてなのか、それともタイ独自開発のつもりなのか、バカのひとつ覚えのようにトムヤム味のラーメンを出す。トムヤムクンといった、タイ料理を代表する酸味と辛味が一体となったスープだ。日本の味に惚れ込んだウィチアン氏は絶対にそれを許さない。 「本物の味をコンセプトにしている以上、タイの味を入れるのは違うと思います」  名古屋にある「フジヤマ55」の本部は比較的FC店に自由のある契約をしてくれるようで、タイの支店で独自の商品開発やプロモーションなどをすることが許されているという。しかし、ウィチアン氏はあくまでも日本の本物の味であることを前提として考えている。 「つけ麺はタイ人にとっては未知の食べもの。できるだけスタッフからも説明するようにはしていますが、初めての人はスープを麺にかけてしまいます」  タイの麺類につけ麺風のものはない。そのため、いくら日本好きでもつけ麺まで知っている人はまだ少ない。この点だけは日本人が少ない郊外へと出店するときにリスクになる。そのため、タイにある支店は殆どが売り上げを伸ばしているのだが、日本人がほとんどいないコンケーン店の売上は最も低いのが現実だ。しかし、それでもウィチアン氏は本物の味にこだわり続ける。タイ国内の各支店へはバンコク近郊にあるセントラルキッチンから食材を配送する。麺も日本のレシピのまま製造しており、間違いなく日本の味である。タイの工場には日本の「フジヤマ55」に関わっていた日本人が常駐しているので、味がぶれることもない。  そのこだわりに、日本人が少ない地域でも徐々に理解され、売り上げも伸びつつあるという。 「今後も郊外や他県に展開するつもりです。今の状況だと15店舗くらいまでは行けると思っています」  若きタイ人社長だからこそ見抜いている、タイ人の日本ブームの傾向。だからこそ、中心地ではなく、あえて外へ外へと向かっている。いよいよ日本の本物の味がタイの田舎で浸透する日も近い。 <取材・文・撮影/高田胤臣(Twitter ID:@NaturalNENEAM) 取材協力:Mr.Wichian Inkraidee(Megumi Group CEO)>
(Twitter ID:@NatureNENEAM) たかだたねおみ●タイ在住のライター。最新刊に『亜細亜熱帯怪談』(高田胤臣著・丸山ゴンザレス監修・晶文社)がある。他に『バンコクアソビ』(イースト・プレス)など
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