中朝国境の街、中国・丹東は水爆実験報道後、どうなっていたか?

夜間ライトアップされ闇夜に浮かび上がるように光る中朝国境を結ぶ鉄橋「中朝友誼橋」

水爆実験報道から約一週間。丹東の街はいま……

 北朝鮮が水爆実験を発表してから約1週間が経過した。日本ではまだ報じられているが、中国では、ほとんど報じられることがなくなった。水爆実験が実施された6日以降、中朝貿易の要である中国丹東は何か変化があったのだろうか。  中国人向け北朝鮮ツアーを主催している丹東の旅行会社担当者へ聞くと、「水爆実験当日の6日も午前10時発の平壌への国際列車、午後4時半着の戻りの鉄道も運行されています。もちろん、今も通常運行されています。国際列車は中朝で合意した年計画で運行されているので基本的に止まることはありません。見た感じですが、6日以降も鉄橋を往来する物流にも変化はないようです」  同社主催の中国人向け新義州日帰りツアーも変わりなく行われているそうだ。ただし、元々寒さが厳しいこの時期は閑散期なので参加者が集まらずツアーが中止になることはあるようだ。 「来月8日に迎える春節北朝鮮ツアーへの問い合わせも増えていて、かなりの人数での実施になりそうです」(同)

水爆実験後も変わりなくステージショーが開催される丹東の北朝鮮レストラン

 現時点、丹東はあまり変化も緊張も感じられない。国境河川の鴨緑江近くに複数ある北朝鮮レストラン(北レス)も普段と変わらず営業されており、定時にステージショーも行われている(丹東や瀋陽の北レスのお客が激減したという情報もあり、季節的なものか、それとも今回の水爆実験の影響かは不明)。  一部日本の報道で鴨緑江の遊覧船へ北側に近づかないよう自粛要請が出たと報じられていたのでそれも聞いてみると、「特に遊覧船のコースに変更があったとは聞いていません。そもそもこの時期は観光客が少ないので、便数を減らしたり、運航停止になることもありますので、寂しげな感じはします。中朝国境は鴨緑江の真ん中ではなく、川自体というのが中朝の基本認識なので、北側へ上陸しないかぎりは越境行為ではなく、北側ギリギリまで遊覧船が近づいても問題はありません。北朝鮮の漁船も中国側ギリギリまで近づくこともありますし」(同)

自粛どころか交易拡大を求める声が増加

平壌への国際列車が発車する丹東駅から北朝鮮国境まで約500m

 丹東の別の旅行社代表は、中国がこれ以上、北朝鮮へ制裁を課しても意味がないと答える。 「制裁を加えれば加えるほど北朝鮮は、ますます地下へ潜って何をやっているのか分からなくなりますよ。その結果、中朝貿易や北朝鮮からの利益を中国がさらに独占するだけで、周辺国にとってはあまり意味がないのではないでしょうか」  さらに丹東では新義州への観光や交易拡大を強く政府へ求める動きが強いとも話してくれた。 「丹東だけはなく、モンゴルやロシア、ミャンマー、ベトナム、カザフスタン、パキスタンなどと国境を接する中国の都市が交易を拡大させるため、より開放を求めた結果、中国政府は、さらなる国境開放を决定しています。丹東で始まった中国人向け新義州ツアーは、パスポートなしで行けるようになる予定です。そうすると、個人的なパスポートを持つことが禁止されている公務員なども訪朝できるようになり、高いニーズが期待できます」(同)  中国が友好国と歩調を合わせて制裁を課すか注目していきたいところだが、忘れてはいけないのは、中国は現在もすでに北朝鮮へ制裁実施中である点だ。中国国内からもこれからさらに北へ制裁を課しても効果を疑問視する声が上がっても仕方ないのかもしれない。  さて、現時点では観光面や中朝国境では大きな変化は見られない。過去の事例からしても中国が観光への大きな規制を加えることも考えづらい。  理由としては、高度経済成長に陰りが見えた中国では、特に中国地方都市の経済が低迷し始めている。丹東も北朝鮮との交易、観光など”北頼み”が鮮明になりつつあり、前出の旅行社代表の話からすると丹東以外の国境の街でも同様の傾向が見られるようだ。丹東にとって北朝鮮は、以前の「お隣の貧しい国」から「大切な朋友(金づる)」になっているのだ。 <取材・文・撮影/我妻伊都(Twitter ID:@ito_wagatsuma