会社の派閥抗争に巻き込まれそう。まず最初にとるべき行動は?
2016.01.12
職場でのいさかいは厄介だ。本人たちが反目しあうだけならまだしも、周囲も巻き込む。派閥争いにも発展する。運悪く板挟みになったら、どう振る舞うべきか。
今回は池波正太郎の傑作捕物帳『鬼平犯科帳〈1〉』(池波正太郎著/文春文庫)から、仕事づきあいのヒントを探りたい。この人気シリーズの主人公・長谷川平蔵は実在の人物がモデル。放火犯や盗賊といった凶悪犯を取り締まる「火付盗賊改方」を率い、事件に挑む。
本シリーズには、さまざまな盗賊が登場する。どんな集団にも統率は不可欠。「手下の者のすべての身になって、おつとめをするのでなくては頭領の値打ちなし」を信条にか掲げるのは大泥棒として名高い“海老坂の与兵衛”。当然ながら、子分の信頼も厚い。
この“すべての身になる”は、集団をとりまとめる基本姿勢を示唆する。トラブルの渦中にいると、もめごとの”主役”ばかりに気を取られがちだ。だが、あえて周辺に目を向けたい。もめごとを制圧できるキーマンは案外、離れたところにいるものだ。
“鬼の平蔵”の初恋の相手が盗賊の一味として捕まる。ふてくされた態度で取り調べに応じる姿に、かつての面影はない。平蔵は「女という生き物は(中略)現在のわが身あるのみ……ということをおれたちは忘れていたようだな」と語る。
女に限らない。人は置かれた立場や状況でいとも簡単に態度を変える。昔はこんな人じゃなかったのに……”などと、過去の印象を重ねて嘆いても事態は好転しない。まずは現状を受け止め、注意深く観察する。巻き込まれつつあるもめごとの戦況を見極めるのが最初の一歩だ。
情報屋・岩五郎が営む居酒屋に、謎の乞食坊主が現れる。坊主は岩五郎の顔相をほめた後、「いまの暮らしの基盤になっていることに、そむいちゃあいけない」と戒めた。
”暮らしの基盤”とは何か。職場なら「仕事を支障なく進められる環境」である。一見、大騒ぎしているように見えても、仕事がスムーズに進むようなら、仲裁は不要。限りある時間と体力は本来の仕事に役立てたい。
もめごとはある日突然やってくる。やみくもに解決を目指すと、疲労困憊しかねない。まずは人間関係を観察し、情勢を見極める。すると、次にとるべき行動もおのずと見えてくる。<文/島影真奈美>
―【仕事に効く時代小説】『鬼平犯科帳〈1〉』(池波正太郎著/文春文庫)―“
<プロフィール>
しまかげ・まなみ/フリーのライター&編集。モテ・非モテ問題から資産運用まで幅広いジャンルを手がける。共著に『オンナの[建前⇔本音]翻訳辞典』シリーズ(扶桑社)。『定年後の暮らしとお金の基礎知識2014』(扶桑社)『レベル別冷え退治バイブル』(同)ほか、多数の書籍・ムックを手がける。12歳で司馬遼太郎の『新選組血風録』『燃えよ剣』にハマリ、全作品を読破。以来、藤沢周平に山田風太郎、岡本綺堂、隆慶一郎、浅田次郎、山本一力、宮部みゆき、朝井まかて、和田竜と新旧時代小説を読みあさる。書籍や雑誌、マンガの月間消費量は150冊以上。マンガ大賞選考委員でもある。
「手下の者のすべての身になって、おつとめをするのでなくては頭領の値打ちなし」
「女という生きものには、過去もなく、さらに将来もなく、ただ一つ、現在のわが身あるのみ」
「いまの暮らしの基盤になっていることに、そむいちゃあいけない」
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