新観光名所化する「猫島」。猫がもたらす経済効果を探った
ここ数年の猫ブームの勢いはとどまるところを知らないが、猫好きなら一度は行ってみたいのが「猫島」ではないか。今や日本各地に存在し、テレビやネットで紹介され、観光名所になっている島も少なくない。そんな「猫島」にわざわざ足を運ぶ目的は、何といっても、猫、猫、猫。現地の猫との出会いや触れ合い、撮影に興じる猫マニアも年々増えている。
そんな中、瀬戸内海の小さな島がこの3~4年で新たな「猫島」として脚光を浴びている。香川県高松市の男木島だ。面積1.38㎢の小さな島で、人口はわずか180人。過疎化と高齢化の進む小さな離島だ。交通手段は高松港からのフェリーのみだが、そんな不便さもマニア心をくすぐるのかも知れない。にも関わらず大勢の猫好きが押し寄せるのは、何といっても猫の数。その数なんと千匹以上とも噂されている。
「いやぁ(苦笑)、さすがに千匹まではいないと思いますが、200~300匹はいるでしょう。ほとんどがノラ猫です」と島の猫事情を教えてくれたのは高松市役所観光交流会の女性スタッフだ。
「男木島が猫島として有名になったのは3~4年くらい前です。きっかけはアートで地域活性化を目指した瀬戸内国際芸術祭でした。島の伝統文化や美しい自然を世界に発信する目的で開催されたんですが、おかげさまで島には多くの鑑賞者に来ていただきました」(同)
男木島は、映画『喜びも悲しみも幾歳月』(木下惠介監督)の舞台や『バトル・ロワイアル』(深作欣二監督)のモデルとなった島で、映画やアートにも縁が深い。瀬戸内国際芸術祭は2013年にも開催され、好評を博したのだが、そんなアート以上に(?)来訪者の心を掴んだのが、島のノラ猫たちだった。
「いつから増えたのかわかりませんが、芸術祭に来ていただいた方々の口コミで、男木島には猫がいっぱいいるという話が広がっていったんだと思います」(同)
さらに同年には、世界的に有名な動物写真家の岩合光昭氏が撮影に訪れ、男木島の猫たちを紹介したことで、猫好きたちのネットワークに瞬時に広がり、平成26年度に訪れた観光客は約5200人。島民の実に30倍近い人数が押し寄せた。
「ここ数年の多くは猫目当ての観光客の方ですね。おかげさまで島としての経済効果も以前に比べて増えていることは間違いありません」(高松市男木出張所)と、ノラ猫たちが地域経済を潤す一因となっているのは確かなようだ。
男木島の『民宿さくら』でも「今では猫目当ての予約でいっぱいです。お客さんの8割が猫目当てですよ(笑)。以前は大阪近辺の利用者が多かったんですが、今では北海道から沖縄、東京まで、日本全国から来ていただいています。うちでは、お客さんに島の思い出の写真を送ってもらっているんですが、どれも猫の写真ばかり(笑)」(『民宿さくら』の女主人)なのだという。
また、男木島の猫の魅力は、その人懐っこさにあるという。普通のノラ猫なら警戒心を持っているものだが、「島の猫は人間を怖がることなくちかよってきますし、人の膝に平気で飛び乗ってきたりもします」(同)。
ちなみに島で頻繁に猫に出会える二大スポットは、男木漁港と豊玉姫神社。特に豊玉姫神社は港の大鳥居からの参道を通じて島全体が一望できる絶景スポットなのだが、猫たちもここがお気に入りのようで、人を見つけるや否や、数匹から十数匹の群れをなして近寄ってきては、足元を塞ぐようにゴロ寝したり、体を摺り寄せてきたりと、猫好きにはたまらない“歓迎”が待ち受けている。そのため男木島猫巡りでは欠かせない場所なのだが、一方の男木漁港は少し事情が複雑だ。
「10年以上前からいます。何匹いるかわかりませんが、とにかく猫が多くて困っているんです。そこら中に糞をするし、網や漁具を壊されてしまう被害も多いんです。観光客の中には勝手にエサをあげる人もいて、仕事以外でも迷惑がる漁師も多い。漁業関係者の間では困っている人も多いんです」(男木島漁協組合)
そうした不満は島民の中にもあるようで、庭や畑を荒らされたり、家や生活に入り込んでくることに辟易している人も少なくないという。とはいえ、今や男木島のノラ猫たちが“観光資源”として経済的にも島の知名度アップにも“貢献”していることも事実。
島民にとっても想定外の「猫島ブーム」なようだが、さらに深刻な問題があるという。「ほとんどノラ猫ですからね。この先、何匹まで増えることか……」(前出・高松市役所観光交流会)。島民と猫と観光客がともに癒される「猫島」のモデルケースになってほしいものだ。<取材・文/後藤幹次郎>ハッシュタグ