仕事が不調で他人が妬ましくなったとき――この言葉が響く!
2016.01.01
【石原壮一郎の名言に訊け】~スヌーピーの巻
Q:俺はド田舎の貧乏人の家に生まれた。学歴もない。最初からハンディを背負っている。がんばってようやく持てた自分の居酒屋も、予算がなかったから立地条件が悪くて、なかなか軌道に乗らない。しかし、金持ちの家に生まれたボンボンどもは、親の金で何の苦労もなく大きな店を持ったりしている。世の中は不公平だ。正直、そいつらが妬ましい。同じスタートラインで勝負したら、誰にも負けないのに!(東京都・28歳・自営業)
A:そうそう、私も福山ぐらいハンサムだったら……と悔し涙を流したことが何度あったことか。世の中は不公平ですよね。ちょうど今、この相談にまさにピッタリの方が、喫茶「いしはら」にいらしてらっしゃいます。というか、連れてこられています。お隣の山田さんに飼われているビーグル犬のポチさん。最近また、同じビーグル犬のあの方が人気を集めていて、ちょっとご機嫌ななめだとか。ポチさん、どうでしょうね、この相談。
おいこら、人を妬みのかたまりみたいに言うなや。たしかに、ワイと同じビーグルのスヌーピーはんが人気を集めとるんは、ちょっとばかしケタクソ悪い。ほやけど、あいつはあいつ、ワイはワイや。どんだけうらやましいと思たところで、入れ替わることはできん。
それにしてもスヌーピーはんの人気は、息が長いなあ。もてはやす人間も人間やで。犬に救いを求めたり、生き方を学んだりしてどうするねん。ま、たまにええこと言いくさるけどな。このにいちゃんが怒っとる「不平等」についても、こう言うとったで。
「配られたカードで勝負するしかないのさ……。それがどういう意味だったとしても」
そらそや。にいちゃんにはにいちゃん、ワイにはワイのカードがあって、それで勝負するしかない。ワイが「もしスヌーピーやったら、もっと人気集めたるのに」とか「もし人間やったら、ごっつい金持ちになったるのに」とか言うてたら、「アホか」と思うやろ。
手持ちのカードがイマイチなのは恥ずかしいことでも何でもないけど、人のカードを妬んだり、自分がうまいこといってないのを元々のカードのせいにしたりするんは、かなりみっともないで。そういうのを負け犬根性っていうんや。犬のワイからしたら、気にいらん言葉やけどな。人間のほうがそういうのは得意やから、言うんやったら負け人根性やろ。
にいちゃんも、ウジウジと人を妬んどるのはともかくとして、立派なもんやないか。その若さで店を持ったんやろ。手持ちのカードがイマイチやったから、がんばれたんと違うんか。ボンボンどもは「自分は金持ちに生まれたせいでハングリー精神がない。貧乏人の子どもがうらましい」なんて思っとるかもしれんで。それはそれでケタクソ悪いけどな。
スヌーピーは、相棒のチャーリー・ブラウンが「いつの日か願いがかなうといいな」と呟いたときに、「そうなるように生きていかないとね」と答えとる。「もし望めば犬だって飛べるんだ」なんて無茶なことも言うとる。手持ちのカードがどうあれ、全力で勝負すれば何とかなるはずや。ちょっとうまいこといかんからって、妬むことに熱中しとる場合と違うで。
どや、ワイもなかなかええこと言うやろ。スヌーピーもええけど、もっとみんなワイの話を聞きに来いや。やっぱり、飼い主がおっさんっていうのが不利なんかな。そりゃ、チャーリー・ブラウンみたいな子どものほうが、ウケはええわなあ……。うまいこといかんなあ……。
仕事にせよ何にせよ、自分が順調なときは他人への「妬み」の気持ちなんて、これっぽっちも湧いてきません。ところが、ちょっとうまくいかなくなると、妬むことに熱中しがち。妬んでいるうちは、自分の問題点や課題からは目をそらすことができます。誰かを妬みたくなったら、それはたいてい自己弁護か現実逃避だと思ったほうがいいでしょう。
【相談募集中!】ツイッターで石原壮一郎さんのアカウント(@otonaryoku )に、簡単な相談内容を書いて呼びかけてください。
いしはら・そういちろう/フリーライター、コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』(扶桑社)でデビュー。以来、さまざまなメディアで活躍し、日本の大人シーンを牽引している。『大人力検定』(文春文庫PLUS)、『大人の当たり前メソッド』(成美文庫)など著書多数。近年は地元の名物である伊勢うどんを精力的に応援。2013年には「伊勢うどん大使」に就任し、世界初の伊勢うどん本『食べるパワースポット[伊勢うどん]全国制覇への道』(扶桑社)も上梓。最新刊は、定番の悩みにさまざまな賢人が答える画期的な一冊『日本人の人生相談』(ワニブックス)
【今回の大人メソッド】妬みは手っ取り早い自己弁護であり現実逃避
ハッシュタグ