SNS掲載写真でのトラブル。違法・合法の境界線は?

Q:お正月、家にいると何かと用事を言いつけられるので、妻に「休日出勤になった」と嘘をついて友人と飲みに出かけた。ところが飲み会メンバーの1人、T君が断りなくSNSに写真をアップ。おかげで妻にバレてしまい、大ゲンカに。おわびに高いバッグを買わされるなど、散々な目にあってしまった。この原因を作ったT君からバッグの代金をいくらか取ることはできるのでしょうか。(Yさん 広島県・41歳・建設業) 飲み会 20歳代で約5割、30~40代で約4割、50~60代でも約2割の人が利用するほど、SNSは身近な存在になった(総務省調べ)。楽しいコミュニケーションツールである反面、予期せぬトラブルと隣り合わせという側面も。日本法規情報が行った「SNSトラブルに関する実態調査」によると、SNS上のトラブルに「巻き込まれた経験がある」人は48%と約半数、その原因は「画像投稿に関するトラブル」が38%ともっとも多かった。  今回の相談は、画像を投稿したことでYさん夫婦のケンカの原因を作った友人、T君に責任を負わせたいという相談だ。高崎俊弁護士に話を聞いた。 「法的にはT君の行為が①『違法』で、②『故意または過失』があり、③Yさんに『損害』が生じた。この3点が認められる場合には損害賠償を請求することが可能です」

第一の要件である「違法」性

「『違法』というのは、ざっくり言うと『何らかの権利が侵害されること』を意味します。この場合、重要なのはT君の行為で、相談者であるYさんのプライバシーの権利や肖像権が損なわれたかどうか。このケースでは飲み会に参加した画像がSNS内で拡散したことが最大の問題でしょうから、争点になるのは主にプライバシー権=『自分の私的な情報をみだりに公開されない権利』が侵害されたかどうかです。もっとも、プライバシーとして保護される情報の範囲が広すぎると、今度は他の人の表現の自由と衝突してしまいます。一般人の感覚に照らしたとき、『当人がぜひとも秘密にしておきたいであろう情報』のみがプライバシー権の対象として保護されることになります。」  そこにいないはずの飲み会に参加しているという事実は『ぜひとも秘密にしておきたいであろう情報』といえるのでは? 「妻にウソをついているとはいえ、同僚と居酒屋で飲んだだけなら、一般人の感覚からしてぜひとも秘密にしておきたい事実とまではいえないと思います。しかし、その会がハプニングバーでのオフ会や、そこまで行かずとも合コンなどであれば、妻その他の周囲の人に秘密にしたくなるのは自然なことでしょう。Yさんの参加した集まりに、秘密にしたい特別な理由が認められる場合、Yさんの画像を勝手にSNSに投稿するという行為はプライバシー権を侵害する『違法な行為』になりうると思います」

「故意・過失」の判断基準は?

 もっとも違法性が認められたとしても、損害賠償が認められるには「故意・過失」があることも必要なのだという。 「今回のケースにおいて『故意・過失』が認められるには、SNSに投稿したT君の認識が重要です。『Yさんの飲み会参加』が、Yさんにとって不都合なプライバシー情報だと、T君が認識していれば『故意・過失』と認められる可能性は高くなります。しかし何も知らないT君が同席したYさんの画像をSNS上に掲載したというだけでは『故意・過失』は認められないでしょう。Yさんが『秘密にしたい』事情の認識までが必要になると思います。その場で撮影を拒否していたり、SNSへの掲載を事前に禁じていた場合『故意・過失』が比較的認められやすいでしょう」  ただし他にも「故意・過失」が認められるケースはあるという。 「例えば、性的に乱れたパーティーならば、参加者同士秘密を守るのが暗黙の前提でしょうから、『故意』が認められやすいでしょう。しかし、合コンとなると、Sさんが既婚者だと知らなければ、秘密にしなければならない事情を理解できないかもしれません。その場合には、T君を法的に非難することができなくなり、理論的には『故意・過失』が認められない可能性が高いですね」

「損害賠償」は実際の「損害」に対して認められる

 読んで字のごとく「賠償」は「損害」に対して発生する。ではこの場合の「損害」とは何か。 「仮に『違法』と『故意・過失』が認められても、T君の行為から『損害』が生じない限り、損害賠償は認められません。Yさんは機嫌をとるために奥さんにたバッグを買い与えています。しかし、バッグの代金がそのまま『損害』となるかは疑問です。そもそも、T君が侵害したのは、Yさんのプライバシーという『内心の権利』。そこで発生する損害は精神的な損害のはずです。つまり、Yさんが『損害』として賠償請求できるのは、『自分の心の傷』に対応する金銭である『慰謝料』に限られるはず。それがバッグ代金と等しくなるかというと……ちょっと難しいように思います」  では、ズバリこのケースにおける慰謝料の相場は? 「詳細な事情も不明ですので慰謝料の額がいくらになるかはわかりません。ただ最近ではSNS関連の判例も出てきてはいます。例えば、『SNS上で、ある女性の顔について美容整形している旨を指摘したことについてプライバシー侵害を認め、さらに侮蔑した発言についても違法性を認めた』という事案では、慰謝料総額15万円が認定されています(東京地裁平成27年3月24日)。ただし今回のケースでは、Yさんの写真自体には問題がない可能性が高く、かつYさんを侮蔑するようなものではない。つまり、慰謝料の額は相当低くなると思われます」  いまや誰もがスマホで写真を撮りSNSでアップする。すべてが可視化される時代に「気づかぬうちに撮られていた」は通用しない。思いもよらぬツケを払わされぬよう、家族や職場に対する言い訳もバレることを前提に組み立てる必要があるのかもしれない。<取材・文/谷 咲> 【参考】 ※総務省 SNSの利用率 ※SNSトラブルに関する実態調査 日本法規情報