iHomeのストリーミングテレビアダプターとリモコン
11月30日、日本の番組配信サービス中国最大手の「iHome」が放映を中止し、日本の番組が視聴できない状況が続いている。ツイッターを見ると、会社へ電話してもつながらず、先払いした視聴料がどうなるなど不安の声が上がった。
同サービスを起動させると、画面上に「中国の国家政策上の理由により、システムが整流を必要とするため、回復時間が決定されることに!喜ばせるために不便さを理解します!」(原文ママ)と、中国人が日本語に訳したのか翻訳ソフトの訳をそのまま使ったと思われるテロップが流れている。おおよその意味は分かると思うが、中国政府の政策が絡んでいると推測される。
サービス停止前の番組選択画面。停止後は上部にテロップが
日本の番組をリアルタイムに視聴できるこの仕組は、インターネットテレビと呼ばれており、日本側で録画した番組をインターネット回線を経由して、ほぼリアルタイムでストリーミング視聴するというもの。以前なら日本の自宅などにサーバーを設置して海外滞在先とを結んで日本の番組を見たりしたが、ある程度のスキルと初期費用が必要だった。その後、「ボルカノフロー」などが登場してより安く日本を離れていても日本の番組を楽しむことができるようになったが、あくまで個人で楽しむのが前提だった。iHomeなどは、それを商用化したものと言え、まさしく著作権的にはアウトな存在であった。
それでも、関東や関西の地上波はもちろん、BS、CSなど最大48チャンネルを視聴できると謳い、しかも視聴料が必要な「WOWOW」や「ディスカバリーチャンネル」も含まれるほか、1週間前までさかのぼっての視聴や予約録画もできるなど高い利便性を誇っていたために、在中邦人や日本語がわかる中国人などの加入者を着々と増やしていた。この矢先に今回の「iHome」停止が起きたのである。
大連の四つ星ホテルに貼り出された日本語チャンネルについての告知
iHomeがサービスを停止して1週間ほど経つが現状はどうなっているのか。
どうやら閉鎖させられたのは、最大手iHomeの1社だけで、他社では、引き続き視聴できるため影響ないか、すでに乗り換えたという人が出始めている。つまり、今回の規制強化は1社狙い撃ちであり、全体のインターネットテレビへの規制ではなさそうだが、よく中国が得意とする大手を見せしめ的に規制し、その他の同業種へ圧力をかけているのかもしれない。
中国瀋陽で展開するiHomeの代理店経営者へ連絡が取れ確認すると、
「10日から別会社への機械へ交換することで復旧させる予定です。交換費用だけで大赤字です」
ここで言う機械とは、ストリーミングテレビアダプターを指している。この代理店は、「iHome」から他社のストリーミングテレビアダプターへ変えることで現状を打開しようとしているようだ。
冒頭で触れたテロップが流れているにしても、現段階の情報では中国政府の規制強化が原因かは定かではないが、あのテロップを文字通り受け止めるとするならば、「iHome」が見せしめ的に取り締まられたか、あるいは同社と中国政府との間に「良好な関係」を築けなかったか……。事実、2014年7月に「LINE」がブロックされ、現在も不安定な状態にあるため、実質、チャットアプリとしては終焉させられたのだが、その反面、同じ西側諸国のマイクロソフト傘下にある「スカイプ」は、まったく規制されていない。両者の違いを中国の事情通は、中国政府との関係に尽きると断言するが、こうしたことはままあるのだ。
また、実際に習近平政権になってからケーブルテレビなどでの日本アニメは禁止され、放映されていない。また、「優酷(Youku)」や「土豆(Tudou)」などの人気動画サイトには日本のアニメやドラマ、バラエティ番組が多くアップされていることでも知られているが、この2、3年、日本の番組がアップされても短期間で削除されることが増えている。こうした規制の延長線上にあるとも言える。
ただ、こんな見方もある。
「中国で違法に日本の番組が視聴されているのは、放送に携わる業界人は皆知っています。ですが、国内と比べると絶対数が少なく影響力も少ないので、コスト面から考えても製作者サイドからすれば放置するしかなかった。しかし、こうした状況が日本の新聞や影響力あるテレビなどので日本で伝えられてしまうと有料番組へ毎月視聴料を払っている人は、強く不満を感じて、放送会社や総務省へ抗議していきます。そんな声が増えてくると、国としても、中国へ世界の他国同様に著作権を守るようにと動かざるをえないわけです。今回の規制強化は、日本の情報の締め出しではなく、中国が著作権的に世界標準に合わせようとしている第一歩かもしれません」(東京の番組制作会社代表)
AIIBが参加国を増やし、人民元がSDRになるなど、上海ショックなどはあったものの世界経済の間でちゃくちゃくと存在感を増している中国。そうした状況を考えると、世界的にも懸念されている「著作権」の問題をクリアにすることを対外的にアピールする必要があっての「著作権無視企業」のお取り潰しなのかもしれない。
いずれにしても、今回の「iHome」サービス停止は、在中邦人が不便になったというだけでなく、何かの「契機」になっている可能性は十分にある。今後も注視する必要がありそうだ。
<取材・文/我妻伊都(Twitter ID:
@ito_wagatsuma>