トヨタが小型EV車で狙う、未来の都市の移動手段
1997年にトヨタがハイブリットカー「プリウス」を発売してから、20年近くがたった。2014年には排出するのが水だけという燃料電池車「MIRAI」を発表。
近年、各自動車メーカーが実証実験を通じて、「パーソナルモビリティ」――乗車人数がひとり、またはふたりの新しいタイプの乗り物を実用化するための道筋を探っている。トヨタの「i-ROAD」、本田技研工業の「MC-β」、日産自動車の「日産ニューモビリティコンセプト」などがこれに当たる。
2015年7月、トヨタの未来プロジェクト室は、パーソナルモビリティのi-ROADを活用したOPEN ROAD PROJECTを始動させた。i-ROADはバイクの小回りの良さと車の安全性をあわせ持つ3輪駆動車だ。2013年にジュネーブモーターショーに初出展した後、「フランスのシリコンバレー」とも言われる、グルノーブルのカーシェアリングプロジェクトほか、実用化に向けて東京都内での試乗テストなどが行われている。
OPEN ROAD PROJECTは、公募で選ばれた試乗パイロットに一か月間、プロトタイプのi-ROADを貸し出す。同時に複数の企業と連携して、都市の移動ツールとしてのあるべき姿を模索しながら、車両の開発を進めているという。例えば、狭小遊休地の活用施策を模索する「軒先」サービスとの連携や、先端のデジタル製造技術に強い「kabuku」とともに、3Dプリンターで一部のパーツや内装をカスタマイズできるサービスを開発している。
「2014年に、テストカーのi-ROADを都内に住む人に貸し出して試乗テストを行いました。モニターからは、「超小型車に対応していないコインパーキングがある」、 「専用駐車場や充電設備が少ない」という声が挙がってきました。i-ROADの実用化に向け、環境整備の必要性を痛感しました」(未来プロジェクト室 志村和広氏)
OPEN ROAD PROJECTチームはi-ROADが停められる駐車場を、土地のオーナーに直接交渉しながらスペースを開拓した。現在、渋谷区・港区で約200カ所の駐車スペースが登録され、表示・予約できるスマホアプリ「トメホーダイ」で公開されている。
「昨年の試乗テストでは2週間で30キロから40キロ、一ヶ月に換算すると60~80キロの移動量でした。ところがプロジェクトが始動し『トメホーダイ』を導入したところ、テスト期間の走行距離が一か月で平均400キロ、最大で700キロを超えた方がいました。前回のテスト期間と比較すると、一日平均で最大約10倍の移動量にもなり得ることが確認できました」
今回の結果から開発チームは「プロダクトの開発だけでなく駐車スペースなどサービスを並行してユーザーに提案していくことが、パーソナルモビリティの実用化には不可欠である」というプロジェクト発足時の仮説を再確認。新たに街中にあるデッドスペースも新しい駐車スペースとして提案する。
「特に東京都内は、区画がきれいに区切られていません。スペースとしてもいろいろな余白があります。空いた区画のオーナーや地権者と個別に交渉し、地道に駐車場を増やしました。さらに営業時間外の飲食店の店先の空いたスペースなど、時間帯限定で利用できる駐車スポットも追加しました」
合わせて第2期には、街にあるi-ROADの充電スポットの情報配信アプリ「どこでもステーション」をテスト項目として追加。使われていない掃除用コンセントや自動販売機のコンセントをオーナーから借り、充電場所として採用した。現在、都内に8カ所の充電スポットが確保されており、今後も契約数を増やしていく見込みだ。
試乗パイロットのコメントは、公式HPで一部見ることが出来る。小さな車幅を活かして狭い施設内に乗車したまま乗り入れたというユーザー、自宅にある太陽光パネルから電力をまかなっているので、昼間ならほぼ無料で使える点が電気自動車は助かる、などといった体験レポートがアップされている。
「われわれOPEN ROAD PROJECTは、i-ROADを通じて『都市の移動を自由にする』というビジョンを掲げています。車体を傾けて曲がるバイクにも通じた、「走る楽しみ」もあるうえ、小型化によって駐車場探しのストレスからも解放される。「楽しみ+利便性」が向上すれば、ちょっとした買い物でも気軽に車を出したくなるかもしれない。私たちは車の性能を活かしつつ、車移動の快適さや利便性を追求することがプロジェクトの目的だと考えています」
都市の特徴とライフスタイルに目を向けることで車移動の可能性は広がった。未だに緩和されない鉄道の通勤・通学時の混雑や交通渋滞、若年層の車離れ、少子高齢化が進む中、東京におけるクルマの最適解は何か。誰も知らない正解の形をトヨタは模索し続けている。
<取材・文/石水典子>
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