起業に失敗した知人に贈る言葉
2015.11.11
【石原壮一郎の名言に訊け】~五郎丸歩の巻
Q:「このビジネスモデルは絶対にイケる!」と確信し、友人を誘って意気揚々と起業した。しかし、世の中は厳しかった。思ったように仕事は入らず、自分の誘いで会社を辞めた友人との関係もギクシャクしはじめて、1年もたたないうちに会社は解散。残ったのは数百万円の借金だけだ。でも、アイディアは間違ってはいなかったと今でも思っている。いつか必ずリベンジしてやりたいが、会社を潰して友人にも迷惑をかけた自分には、そんなことを考える資格はないのだろうか。(埼玉県・31歳・アルバイト)
A:そうですか……。それは残念でしたね。世間的にはよくあることですけど、本人にとっては人生を左右する大問題ですよね。喫茶「いしはら」のカウンターでは、昔からのラグビーファンで、このあいだのワールドカップでの日本代表の活躍が嬉しくて仕方ない松本さんが、のんびりコーヒーをすすってらっしゃいます。オネエ言葉がトレードマークで、愛称は「おマツさん」。この人は、どうすればいいんでしょうね?
あらあー、たいへんだったわね。どんなアイディアなのか、あなたがどんな人なのかはわからないけど、きっと運がなかったのね。あるいは、あなたに能力がなかったのね。もしかしたら、そのアイディアとやらがたいしたもんじゃなかったのね。どれが当たりでどれが的外れかは、あなたが決めてちょうだい。実際、うまくいかなくて会社を潰してるんだから、誰もがやさしい言葉で慰めてくれると思ったら大間違いよ。
それはそうと、このあいだのワールドカップ見た? 興奮したでしょー。カッコよかったわよね、日本代表チーム。私の一番のお気に入りは、なんと言っても五郎丸歩君! キックする前のあのポーズは、カンチョウじゃないのよ。よく見てちょうだい。落ち込んでグチグチ言っているあなたには、五郎丸君のこんな言葉を贈ってあげるわ。三連発よ!
「逆境に立たされてこそ成長できる部分は必ずあるはずです」
「この経験を出来たことは無駄にはならないし、無駄にはしない」
「勝負には、勝ちと負けしか存在しない」
まあー、なんてシビレル言葉かしら! あなたは起業という勝負に負けた。それは受け止めなきゃね。だけど、人生が終わったわけじゃない。負けた経験や逆境から、どんなことを学んで、自分をどう成長させるか、また次の勝負の始まりよ。そのお友達とどう付き合っていくかも、全力で立ち向かわなきゃいけない勝負のひとつね。勝負って言ったって、お友達と勝負するわけじゃなくて、自分との勝負よ。
リベンジしてやりたいとかリベンジを考える資格がどうのこうのなんて、言い訳がましいのよ。勇ましいことを言ったり殊勝なフリをしたりしたところで、反省したことにはならないの。失敗した原因を考えて自分に足りないものを考えて、いろんなことを考えて考えた結果、リベンジしたい、リベンジできると思ったら、実行する方法を考えればいいのよ。
五郎丸君はね、ワールドカップに向かう前日に「遠く長い道のりでしたが仲間と共に歴史を変えてきます」ってツイートしたのよ。そして見事に歴史を変えた。それだけの努力をしてきたから、こう言えたわけよね。失敗から学んで、やれることを全力でやって、ハッタリじゃなくて心の底から「今度は大丈夫!」と言い切れる人になってちょうだい。
本人にそんなつもりがなかったとしても、意気込みや反省を「見せるため」にやっているうちは、まだ本気じゃないと言えるでしょう。まして「考える資格」があるかどうかなんて、どうでもいいことです。見せるための意気込みや反省と同じで、悩んでいるアピールも、言い訳や泣き言に過ぎません。辛い状況のときこそ、そんな甘い罠に気を付けましょう。
【相談募集中!】ツイッターで石原壮一郎さんのアカウント(@otonaryoku )に、簡単な相談内容を書いて呼びかけてください。
いしはら・そういちろう/フリーライター、コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』(扶桑社)でデビュー。以来、さまざまなメディアで活躍し、日本の大人シーンを牽引している。『大人力検定』(文春文庫PLUS)、『大人の当たり前メソッド』(成美文庫)など著書多数。近年は地元の名物である伊勢うどんを精力的に応援。2013年には「伊勢うどん大使」に就任し、世界初の伊勢うどん本『食べるパワースポット[伊勢うどん]全国制覇への道』(扶桑社)も上梓。最新刊は、定番の悩みにさまざまな賢人が答える画期的な一冊『日本人の人生相談』(ワニブックス)
【今回の大人メソッド】意気込みや反省は見せるためにするものではない
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