『ZARA』や『H&M』、『ユニクロ』も脅かしそうな『PRIMARK』の戦略
El Pais』は〈『PRIMARK』は既存のモールドを壊して、新たな革命をリードして行く〉と示唆した。即ち、1980年代からZARAのようなファストファッションで安価なアパレルを提供するようになったのがひとつのモールドであるとするならば、そのモールドが激安価格競争の前に通用しなくなり、それに代わる新しい取り組みが必要となっているということを意味している。
同記事の中で、スペインのビジネススクールESADEのマーケティング教授コスタ氏は〈「世界のアパレル業界で、現在一番早いスピードで成長しているのは『PRIMARK』だ〉と指摘している。更に同紙は〈『PRIMARK』が既に現在10か国に進出し、昨年の年商は69億500万ユーロ(9,100億円)だった〉と報じている。スペイン市場に関しては、〈昨年の売上は9億7200万ユーロ(1283億円)で、H&Mの6億ユーロ(792億円)を既に追い越し、2013年度に比べ36%の伸びを見せた〉という。一方のZARAが傘下のインディテックス(Inditex)の昨年のスペインでの年商は34億4,200万ユーロ(4,540億円)であったが、〈2013年度に比べ伸びは僅かに3%だった〉と報じている。また、『PRIMARK』のスペインでの〈昨年の経常利益は3,790万ユーロ(50億円)の伸び、2013年は1,080万ユーロ(14億2000万円)〉だったことも言及している。
さて、その『PRIMARK』だが、ZARAなどのライバル店舗と何が違うのだろうか? スペインメディアでは複数紙でコンサルタントやマーケティングの専門家が以下の点を指摘している。
●とにかく低コストで多売。
『El Pais』によれば、〈昨年のシャツの販売実績がなんと2億枚、そして靴下は3億5,000足の売上を達成したが、〈シャツの代表的な価格は僅かに2.5ユーロ(330円)〉で〈ジーンズは8ユーロ(1,050円)〉での売り上げだ。
●デザインにはカネをかけない。
『PRIMARK』はデザイナーチームは殆んど存在せず、常により低価格で商品を提供出来るサプライ業者を探し、また商品もシンプルなものを主体の揃えだという。むろん、そのデザインは「消費者が否定しないもの」の水準は保たれている。また、〈クロエ(Chloe)のアヴァバッグからヒントを得たバッグが8ユーロ(1,050円)、バレンシアガ(Balenciaga)のミリタリーコートを摸写したコートが17ユーロ(2,200円)〉と、パクリスレスレな線のラインナップを格安で販売している。
●店舗の広さ。
低コスト戦略の中で、店舗面積にかける『PRIMARK』の熱意は意外だ。マドリードのグランビア通りに開設した12000平方mの店舗は別として、それ以外も平均して3000平方mであり、一方のZARAは500平方mだというからその広さは格段の差だ。広い店舗面積でファスト・ファッションにありがちな安っぽさをカバーしているのだろうか?
『PRIMARK』に対抗する意味で、ZARAは激安ショップとして『Lefties』を設立した。昨年の売上は1億3,000万ユーロ(1億7000万円)で、その売上の大半はスペイン市場での販売であるという。既にメキシコ、ポルトガル、ロシアでも店舗を開設している。『PRIMARK』の飛躍の前に、インディテックスの『Lefties』がどこまで激安市場に食い込むか、或いはこの市場を『PRIMARK』が独占することになるのか。今後の成り行きが注目される。
<文/白石和幸 photo by Jean-Pierre Dalbéra on flickr(CC BY 2.0)>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。
10月15日にマドリードのメイン通りにオープンしたアイルランド生まれのアパレル企業『PRIMARK』については、本サイトでも何度か報じてきたが、そのマドリードの1万2000平方mという広さの旗艦店は、オープン初日から4日間、開店前に長蛇の列が続いた。初日の列は数kmにも及び、前夜から待っていた客もいた。また、18日の日曜は大雨に見舞われたが、それでも開店前には300mの列が出来ていたそうだ。。
11月1日付のスペイン紙『『ZARA』や『H&M』を出し抜く『PRIMARK』の徹底的な戦略
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身
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