日野市役所「封筒墨消し騒動」に潜む危うさ

封筒の文言を墨塗させた「空気」

 一時期、自治体によるISO14001取得が流行った。あちこちの自治体が「環境マネジメント」の掛け声を急に唱え出し、この規格を取得していった。日野市もこの流行に乗ったのだろう。しかし、ISOブームも一過性の物に過ぎず、今や誰も顧みない。「環境マネジメント」なる標語も色あせたものになってしまった。だから易々と返上したのだろう。  流行といえば、日野市はCATV局の開設も他の自治体より一歩先んじていた。旧郵政省が有線放送や通信に関する規制を緩和し始めた90年代の始め、各地で自治体肝入りのCATV局開設が流行した時期がある。日野市はこの流行の波に乗ってCATV局を開設した東京都下における極初期の事例だ。  そして、日野市には、もう一つ、「東京都下自治体の先駆け」の事例がある。 「草の根保守の蠢動」の第2回でお伝えしたように、今、全国の地方議会で「早期改憲を求める意見書」の採択が相次いでいる。  この意見書採択の最初の事例は2014年2月の石川県議会。その後、熊本、千葉、愛媛と、各地の県議会で続々と同様の意見書が採択された。最初の事例となった石川県議会の意見書は、日本会議の案文そのままであったという。その後、自民党本部から各都道府県連に石川県議会の意見書を参考にするようにとの通達がだされ、2014年から今年にかけ一気に意見書採択の動きが広まった。  そしてこの流行の波に東京都下の自治体として、一番最初に乗った自治体こそ、日野市だったのだ。  どうも日野市は流行に弱いらしい。流行のものと見れば、すぐに飛びつく習性があるのだろう。だから、ISOも取得もした。ブームが廃れたと見るや、相当のコストをかけて取得したはずの認定もあっさりと返上してしまう。時代の趨勢に敏感だからCATV局も真っ先に開設する。しかしその後の運営は知ったことじゃない。改憲意見書の採択が各地の自治体で流行っていると見れば、バスに乗り遅れるなとばかりにこれに同調する。  何も考えず、反省も加えず、流行の波に乗っていれば、格好はつくだろう。同類の浅薄な人士から賞賛の声も得られよう。そういう浮ついた空気が、日野市役所に充満していたのだろう。  そしてその浅薄で浮ついた空気こそが、「日本国憲法の精神を尊重しましょう」の文言を墨塗させたものの正体ではないか。  きっと、黒ペンを持って墨塗を担当した職員に特段の改憲思想や憲法観があったのではなかろう。なにも思わずに何も考えずに淡々と「日本国憲法の精神を尊重しましょう」を墨塗したのだろうし、その作業を検収した上長も特段不思議にも思わなかったのだろう。浅薄で浮ついた空気が彼らに「ちょっと待てよ」と考えさせる余地を与えなかったのだ。  しかし、その「なにも考えなかった」ことこそが怖い。
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日野市役所の「アイヒマン」
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