難民受け入れ問題で揺れるメルケル首相の足元

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〈メルケル首相は最近の数週間でヨーロッパで彼女がもっていた権威を可成り失った〉と10月27日付ドイツの『D.W.』電子紙で指摘したのは政治アナリストのクリストフ・ハッセルバッハ氏だ。  そしてその要因は移民問題に対するメルケル首相の対応にあるとしている。  同記事の中でハッセルバッハ氏は〈「(移民者の)数に制限はない」とか「我々は(移民問題を)解決出来る」〉とメルケル首相が発言したことや、〈難民収容所を訪問したあとダブリン協定を適用しないと決めた〉こと。更に、多くの移民を受け入れているドイツの負担軽減に〈EU加盟国も支援すべきだ〉と望んだことなどが、〈彼女の権威が減少した理由だ〉と同氏は説明した。何故なら、それは〈彼女が主導して進めたことであり、然もEUの加盟国にも彼らの意思に反してドイツと同様にそれに取り組むように要請した〉からだ、とも付け加えている。  実際、難民の受け入れや移民に対して寛大な姿勢で臨んできたメルケル首相への批判を叫ぶ勢力の声は日増しに大きくなっている。  メルケル首相が率いるキリスト教民主同盟(CDU)と長年連立政権を維持しているバイエルン・キリスト教社会同盟(CSU)は移民問題げ要因で亀裂が生じており、CSUのホルスト・ゼーホーファー党首はメルケル首相の移民対策の変更を公に要求したほどだ。また9月23日の同党総会の閉会時には移民問題でメルケル首相と真っ向から対峙しているハンガリーの極右派オルバン首相を招待するという出来事もあった。  苦境に立たされるメルケル首相だが、難民受け入れに寛大な姿勢を示したのは単に人道的な理由だけではないと見られている。そこには、ドイツの将来的な労働力の後退を避けるという意味合いもあったと指摘する声がある。

難民・移民受け入れに寛大な「もう一つの理由」

 例えば、それは9月2日付電子紙『BBC Mundo』が〈「80万人の移民を受け入れるドイツがどのように恩恵を受けるか」というタイトルの記事を掲載したことからも推察出来る。同記事によると、〈ドイツの2060年の人口は2013年統計の8130万人から、1000万人減少して7080万人になると推計されている〉という。そのため、〈若い労働者の移入は有益となる〉と指摘し、現状のままだと、〈2060年には65才以下の二人の労働者が収める税金で、65才以上のひとりを扶養することになる〉という。  つまり、〈シリアや或いは他の国からきつい労働にも堪えて新しい人生を築くことに努力し、受け入れ国の負担にはならないということを見せようと努力する若い移民家族の到来は、特にドイツにとって有益なのだ〉というのだ。  こうした背景を裏付けかのように、ドイツ企業連合の指導者のひとりウーリッチ・グリーリョ氏は、2014年12月に「我が国は長年移民を受け入れて来た国だ。それを続けねばならない。国の発展とキリスト教の教えである隣人への愛を捧げる為にも、我が国は移民を多く受け入れるべきだ。移民によって国の発展と繁栄は保障される」とドイツのDPA通信社のインタビューに答えている。(http://www.voltairenet.org/article188619.html)。コメントの後半部こそがドイツ財界の本音なのかもしれない。  こうした目論見もあってか、ドイツでは急ピッチで難民収容所の建設を急いでいるという。〈当初予想していた2倍の難民の入国が年末までに見込まれている〉のがその理由だ。〈その数は80万人〉とみられ、〈これまで最高の難民が到着した1992年と比較して70%の増加だ〉という。ニュルンベルグの市長で、また ドイツ市民評議会会長でもあるウーリッチ・マリー氏は〈「入国する難民の40%はドイツに留まるようになるだろう」〉と述べて、〈8万戸の住宅の建設を要請したという。ドイツの貧民と難民の間で安価な住宅の獲得争いが起きないようにするためだ〉としている。。(http://www.elmundo.es/internacional/2015/08/18/55d327e8e2704e25458b4583.html)。  ただ、こうした流れは冒頭のような政権の内部分裂だけでなく、極右勢力の活動も活発化させており、反メルケル派として一大勢力を築き上げる可能性も危惧されている。  ドイツは戦後からひとりの首相の長期政権が繰り替えされている。メルケル首相も2005年から10年間政権を維持しているが、ドイツの政界では2017年に国連事務総長のポストに彼女を就任させようとする動き〉が噂されているという。それは2017年の総選挙でも首相のポストを継続する可能性の強いメルケル首相をそのポストから遠ざけようとする反メルケル派の策やもしれない。 <文/白石和幸 photo by Image by א (Aleph),CC BY-SA 2.5> しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身