中国の邦人拘束。スパイ容疑以外で拘束される理由の大半は?

繁華街には魅力的な誘惑や罠が多いのはどの国も同じ

 9月末に中国で日本人がスパイ疑惑をかけられて長期間拘束されていることが明らかになったが、実は、中国で短期拘束される日本人は少なくない。  中国大連の領事館関係者からの情報によると今年2015年1月の1か月間だけで拘束された日本人は75人に上るという。

邦人拘束の大半を占める「買春容疑」

 日本政府は、中国で拘束された日本人の数について一部例外を除き原則公開していない。  拘束された理由の大半が買春容疑で、他には違法スロットやパチンコなどの賭博である。  大連を訪れる日本人は、観光より出張が圧倒的に多い。外務省の海外在留邦人数調査統計によると大連の在留邦人は5827人(平成27年要約版)となり、短期出張者や届けていない現地採用者や留学生なども含めるとおおよそ1万人前後の日本人が大連にいると言われる。  買春で拘束されるパターンはこうだ。日本人向けの日本式クラブ等の女性を宿泊先のホテルなどへ連れ込んだところへ公安が踏み込んできて拘束される。現場を押さえるため必ず室内に入りドアの鍵を閉めた段階で踏み込むという。  中国は密告すると報奨金がもらえると言われ、通報するのは、店の人間かホテルのスタッフ、第三者となるが、多くのが店とホテルの人間だ。  日本人が多く利用するホテルほど公安とのつながりが弱く踏み込まれる。4、5つ星ホテルだからといって決して安心はできない。むしろ逆で等級が高いホテルほど体裁を考慮してマスターキーをすぐに差し出すとも言われる。4、5つ星ホテルよりも、星なしのエコノミーホテルのほうが安全だと中国在住日本人ではでは囁かれているくらいだ。  もし、買春で拘束され逮捕されると最高で罰金1万元(約18万8000円)、最長10年間中国入国が禁止が科せられることがある。  多くは1、2日間の拘束で罰金を支払い釈放される。しかし、悪質だと判断されると最長15日間の拘留もあるが、それは稀なケースだという。買春で逮捕されたことが帰国後に勤務先へバレて懲戒免職される人も少なくない。出張や駐在勤務が多い大手企業や商社では、買春等で現地の法律に触れて逮捕されると即解雇と社内規則化されている会社も存在する。会社は守らないと予め宣言しているのだ。  大連の事例でも日系企業の大連事務所へ勤務する駐在員、出張者、現地採用の日本人5人全員が買春容疑で逮捕されて業務が回らなくなり、その結果、閉鎖した会社もある。

何もしてなくても「買春」とみなされかねない中国の独自ルール

 また、日本ではあまり知られていない中国の独自ルールがある。それは、未婚の男女が一緒に同室で夜を過ごした場合、ホテルでもマンションでも原則同じで、例え何もしていなくても回売春と見なされ、処罰される場合があるということだ(ただし、外国人同士は未婚でも例外)。  もちろん、中国人同士でも同様で、2012年に吉林市で逮捕された中国人男性は、「彼女と寝ていたら夜中に突然3人の公安が踏み込んできて拘束、連行され、ホテルへ登録していた僕が罰金5000元(当時の最高額は5000元=約9万4000円)を支払い数時間で釈放されました。彼女は注意のみで罰金等はなしでした」と語る。  だか、この取り締まりも中国らしく厳しくなったり、緩くなったりを繰り返しており、時折、「治安強化キャンペーン」が実施されることがあるくらいで、常に厳しいわけではない。また、拘束現場はホテルが多く、賃貸マンションへ公安が踏み込んで拘束するケースは少なく、よほど常習性が高いか、複数からの密告、通報で公安が動かざるを得ない時だろうと思われる。  ちなみに、未婚の男女が同室にの定義であるが、室内へ入り、鍵を閉めた時点で回売春と見なされることがあると言われている。たとえば、個室マッサージなども同様のため、中国では、疑わせないように鍵なしや暖簾のみのドアなしの部屋などが多いのはこのためだ。  余談だがこの未婚の男女が同室で拘束はベトナムにも同じルールが存在する。  在大連領事事務所は、定期的に下記のような内容を配信し注意を促している。 〇賭博及び売買春 〇麻薬、覚せい剤等の密輸など薬物に関わる犯罪 ※中国では、麻薬、覚せい剤等の密輸など薬物に関わる犯罪に極めて厳しい態度で臨んでおり、常に厳しい取締りが行われ、最高刑は死刑と定められています。  また、売買春行為や不法入国・不法滞在・不法就労等の法律違反を外国人に対しては、一定期間の拘留に加え、最高1万元の罰金、最長で10年の中国再入国禁止に処せられる可能性があります。 (2014年12月1日配信メールより)  中国では、まず現場を押さえて拘束して、取り調べて後からスパイ容疑などの逮捕理由をつけて逮捕することがままある。妙な嫌疑をかけられないよう、そして不本意な拘束理由を与えないように「中国ルール」を理解し行動する必要があるだろう。 <取材・文・撮影/我妻伊都(Twitter ID:@ito_wagatsuma
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