安保法制で、紛争地で活動するNGOから悲鳴「安全に活動できなくなる」
安保法制が採決され、戦々恐々としている業界がある。それは実際に紛争地で活動するNGO(非政府組織)だ。今年の7月、安保法制に危機感を抱くNGO団体らが「NGO非戦ネット」を設立。国内76団体、約380人の職員らが加盟し、「安保法制を廃案に」と訴えた。
なぜ紛争地で活動するNGOが安保法制に反対するのか。そこには、切羽詰まった紛争地の現実があった。
「駆け付け警護は現実的ではありません。むしろ、現地の職員が危険にさらされます」
そう話すのは日本国際ボランティアセンター(JVC)の長谷部貴俊事務局長だ。同団体はイラク、アフガニスタン、スーダンなど紛争地で活動しており、長谷部さん自身もアフガニスタンで7年の経験がある。安保法制では、自衛隊が紛争地で攻撃を受けるなどしたNGO職員を救出する「駆けつけ警護」が盛り込まれている。
「NGOの職員が紛争地で誘拐されることはありえる事態です。取りうる安全対策はすべてとっていますが、私たちの団体でも、アフガニスタンをはじめ、紛争地で職員が誘拐された際の行動マニュアルがあります。そこで最も重要視していることは軍や警察に介入させないことです。
紛争地での外国人誘拐の解決手段として最も成功率が高いのは、現地の長老などを介した交渉です。むしろ軍や警察が介入して奪還作成を行った結果失敗することがとても多いのです。また、自衛隊がもし紛争地に派遣されればそれだけで、現地の武装勢力は日本のNGOを敵とみなすでしょう。
現地職員の危険性が増し、活動ができなくなれば、現地で支援を受けている人たちから支援を奪うことになります。そのため、わたしたちは現実的な職員の救出手段として『駆け付け警護は現実的ではない』と思っています。紛争地の現実を知っているNGOで、これを求める人なんていないでしょう」
JVCのアフガニスタン事務所で活動するサビルラ・メムラワル氏も、安保法制に危機感を覚えるNGO職員の1人だ。
「NGO非戦ネットが安保法制に反対する『国際共同声明』を出した際、180のアフガン国内NGOが加盟するアフガン国内最大のNGOネットワーク、ANCB(Afghan NGO Coordination Bureau)が賛同をしました。わたしたちアフガン人は、日本を平和のシンボルのような国だと思っています。敗戦後、武力ではなく経済で復興した国だからです。アフガン人は軍事同盟の一員としての日本ではなく、“平和国家日本”からの支援を必要としているのです」
「もし日本が軍事同盟の一員として軍隊を派遣するようになれば、日本はこれまで得てきた尊敬も中立性も失うでしょう」
前出の長谷部さんは語気を強め、こう付け加える。
「もし“平和国家日本”のイメージが失墜し、敵国とみなされれば、JVCの職員が武装勢力に攻撃されるかもしれません。職員に何かあれば、我々も活動を縮小・撤退せざるをえない。そうなれば一番不利益を被るのは現地の人々です。例えば、JVCはアフガニスタンで診療所を運営し、約2万1000人の支援をしています。もし、その人たちが医療を受けられなくなったら、誰が責任をとってくれるのでしょうか」
「NGO非戦ネット」の国際共同声明
<取材・文/白川愚童 写真/JVC>
駆け付け警護は現実的ではない
日本の“平和ブランド”が崩れてしまう
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