全国学力テストは県民感情を刺激する?

 全国の小学校6年生と中学校3年生を対象に、国語A(知識)、国語B(活用)、算数・数学A(知識)、算数・数学B(活用)の8つのテストを実施する「平成26年度全国学力・学習状況調査(通称:全国学力テスト)の結果が、8月25日に公表された。  同様のテストは1960年代にも行われていたのだが、学力競争を過熱させるとして1964年に中止。ところが、2000年代に入ると子供たちの学力低下が問題となり、2007年から全国学力テストが43年ぶりに復活することになった。

大はしゃぎする成績優秀県地方紙

学校 復活しても、今なお学力競争を過熱させるのではないかという批判や、学校・地域間格差を広げるのではないかという危惧は消えていない。毎年、実施の是非をめぐる論争がおきるのだが、国立教育政策研究所のまとめによると、平成26年度版のテストでは「平均正答率(公立)が低い3都道府県の平均を見ると、全国平均との差は縮小傾向にあり、学力の底上げが進展」「特に小学校調査において、過去の結果と比較して、顕著な改善が見られる都道府県(例:沖縄県)がある」ということだ。  なんだかんだ言われながらも続けてきたら、けっこういい感じに日本の子供たちの学力はまとまってきた、ということなのだろう。が、それはあくまで国家の高みからの見え方。テストを受けた現場においては、もっとひきこもごもだ。「全国学力テスト」という言葉でニュース検索をかけると、全国の地方新聞の声が生々しく聞こえてくる。  たとえば、上記のように「顕著な改善」が見られた沖縄県。沖縄タイムスは「大弦小弦」という記者のつぶやきコラムで、「全国学力テストで県内小学生の成績が全国最下位を脱した。県教育長が記者会見で、教育行政や学校の取り組みの成果を満面の笑みで語っていた」と抑えきれない喜びを滲ませる。そして、「最下位脱出を契機に、学力テストのためではない教育を考えたい。やっとの思いで問題を解いた子のうれしそうな表情、学びの楽しさに没頭している子の目の輝き…。点数以上に大切なものがある」と、左派の新聞らしく、ここぞと理想論を唱えている。  その沖縄県が教員を派遣して指導法を見習ってきたという秋田県は、今年で7回連続の「全国トップ級」の成績を残した。秋田魁新報社は社説で県の教育の特長を挙げ、学力テスト王の貫禄を見せている。「本県では自らの意見を発表し、児童生徒間でよく話し合う授業が長く行われてきた」「好成績を維持してきた要因として少人数学級も挙げられる」「児童生徒に早寝・早起きなどの生活習慣が身に付いているのも心強い」という具合に。社説の最後を「中学校で本県より上位にいる福井県などに学ぶことも大切だ。より良い教育への取り組みに終わりはない」と戒めの言葉で締めているのも、7回連続トップ級の余裕がなせるわざだ。  大分県は全国で中位クラスの年が多かったようだが、今年はランクアップ。大分合同新聞は「大分の小6、九州1位 全国学力テスト」という見出しを掲げ、「大分県教委が独自に集計した総合順位は過去最高の全国16位(昨年度24位)、九州では1位(4位)になった」と報じた。思わず、九州の枠から飛び出よう!と呼びかけたくなるが、それは大きなお世話だ。まずは吉報を各人の流儀で噛みしめればいいのである。

「ビリから数えたほうが早い…」和歌山県の嘆き

 比して、つらい結果になってしまったのが和歌山県。紀伊民報は「全国学力テスト『危機的状況』脱出のために」という緊迫感のある見出しで、「県内小中学生の成績は中学生の数学Aが37位だった以外はすべてが40番台。ビリから数えた方が早かった。とくに小学生の国語Aは、昨年の29位から18ランク下がって最下位」と悔しがる。そして、「教員の指導力やそれを支える管理職の能力に問題はないのか。市町村教委は指導力を十分に発揮できているのか。家庭や地域との連携に問題はないのか」と県教育委員会の責任を厳しく問うていた。  ちょっと眺め渡しただけでも、これだけ豊かな喜怒哀楽。ランキング化が可能な学力テストを全国で実施すれば、自ずと愛郷心が刺激され、「競争原理」が働き始める。そのおかげで今年の沖縄県のような「成果」を得ることもできるが、必要以上の点取り虫精神が膨れ上がり、数字には表れない無理をしてしまっている可能性もあるだろう。  ちなみに、全国学力・学習状況調査では、「テストの成績ばかりではなく、学習や生活状況をアンケートし、学力との関わりを分析した集計にも注目したい」。そう指摘していたのは、福島民報の論説コーナーだ。  この論説が触れているように、「メールやインターネットをする時間が短い」「携帯電話などでゲームをしている時間が短い」子供たちと「長い」子供たちの成績の差が、予想以上に開いている(メールやネットを1日4時間以上する中学生の算数Bの平均正答率は43.6%、30分未満の平均正答率は60.7%など)。ネット脳、ゲーム脳がどうのこうのというトンデモ論を言うつもりはまったくないが、コンピュータとの適度なつきあい方は、今の子供たちにとって相当重要な課題のようだ。
全国学力テスト

テスト結果は、公立しか公表されていないため、ランキングは公立のみのもの

<文/オバタカズユキ> おばた・かずゆき/フリーライター、コラムニスト。1964年東京都生まれ。大学卒業後、一瞬の出版社勤務を経て、1989年より文筆業に。著書に『大学図鑑!』(ダイヤモンド社、監修)、『何のために働くか』(幻冬舎文庫)、『大手を蹴った若者が集まる知る人ぞ知る会社』(朝日新聞出版)などがある。裏方として制作に携わった本には『大学キャリアセンターのぶっちゃけ話』(ソフトバンク新書)、『統合失調症がやってきた』(イースト・プレス)などがある。