沖縄のハブから高濃度の有害物質PCBが検出

『琉球新報』と『沖縄タイムス』は今年9月、「沖縄県浦添市内で捕獲されたハブから有害物質のPCB(ポリ塩化ビフェニル)が高濃度で検出された」と報じた。PCBの汚染源として隣接する米軍基地が疑われる中、識者らは行政や住民が「知る努力」を続ける必要性を強調している。

日米地位協定で基地の中の汚染は「ブラックボックス」

沖縄県浦添市内のハブから有毒物質のPCB、DDTが高濃度で検出された

 名桜大学と愛媛大学の研究グループは、沖縄本島に生息するハブとマングースを対象に、有機塩素化合物の汚染状況を調査。このうち、2013年から14年にかけて浦添市内各地で捕獲されたハブ12匹の脂肪組織から、脂肪1グラム当たり最大で2マイクログラム以上の濃度でPCBが検出されたことがわかった、と発表した。また全てのハブから、農薬として使われたDDTも検出されたという。  PCBはかつて変圧器(トランス)の絶縁油などとして利用されていたが、発がん性などの毒性が知られ、現在は使用が禁止されている。調査結果について、名桜大学の田代豊教授は「沖縄本島中南部には有機塩素系有害物質による環境の汚染が存在し、その中には市街地に一般的に見られる汚染だけではなく、米軍基地や事業所など固有の発生源に起因する汚染が含まれることが示唆された」と報告している。  問題は、実際の汚染源がどこで、汚染が人体に影響をおよぼす可能性があるのかどうかだが、残念ながら現時点では未解明だ。浦添市内には本島東海岸に沿って米陸軍の補給基地「キャンプ・キンザー」が広がる。しかし日米地位協定によって、基地内での有害物質の保管や汚染状況に関する情報は公開されていない。いわば基地の中は「ブラックボックス」と言える。  しかし汚染源として疑われるのは基地だけではない。調査では、過去に沖縄でシロアリ駆除のために有機塩素化合物のクロルデンが広く使われていたと指摘する。また、本島南部の干潟における底質調査で検出されたPCBは、橋の塗装に使われた塗料が汚染源とみられる。そのため報告では「今後、具体的な汚染源の解明と、土地利用における汚染への注意が必要」としているのだ。

協定の限界の中でも「知る努力」を

沖縄の人々にとってハブは猛毒を恐れられているだけでなく、身近な生きものでもある。酒に漬け込んだ「ハブ酒」が売られている

『琉球新報』は9月6日付社説で「米軍は過去のPCB利用履歴や保管実績などの情報を公開すべきだ」と論陣を張った。これ自体は正当な要求だろう。  一方、こうした立場と一線を画するのがNPO「沖縄・生物多様性市民ネットワーク」の河村雅美さんだ。河村さんは9月4日付沖縄タイムスに「研究者、行政、市民がそれぞれの役割を果たし、汚染問題に取り組むシステムを構築する機会にしたい」とコメントを寄せている。 「米軍基地汚染というところで、思考停止になっている現状があります。地位協定という限界の中で沖縄ができる限りの『知る努力』を尽くしているのかといえば、それは疑問です。今回の調査で、フェンスの外の環境を調べることで『汚染源の一つは米軍基地かもしれない』とわかりました。調査結果を受けて、浦添市は基地に隣接する周辺環境調査を実施します。しかし、基地にアクセスできなくとも、こうした行政の調査や汚染源の特定に向けた聞き取り調査など、自分たちのできる範囲で環境状況を把握していくことも必要ではないでしょうか」(河村さん)  住民も参加して「知る努力」を尽くすことで、政府への要求事項も具体的になる。 「例えば浦添市長が政府に汚染調査を要請する際にも、単に『調査をお願いします』ではなく『このような情報があるので、これについて調べてほしい』などと言える」(河村さん)  沖縄が自ら情報を集めて日米政府に事実を突きつけることで、汚染について主体的なアプローチができるということだ。今後の調査の進展が注目される。 「それは沖縄が敬意を持って要請に対応してもらうためにも必要ですし、できることを続ける中で地位協定という壁の突破にもつながるのではないでしょうか」と河村さんは話している。 <取材・文/斉藤円華 写真/ウィキメディア・コモンズ>