明暗わかれる欧州航空業界。ライアン航空は「立ち席」導入でさらなるコストダウンを目指す

photo by Tieske(CC0 PublicDomain)

 ヨーロッパの大手航空会社は経営採算化の為に特に人員の削減を大幅に実施している。というのも、1980年代から北米、そして欧州という順番で航空自由化が劇的に進んだことを受けて登場した格安航空会社(LCC)に市場を奪われているからだ。  ヨーロッパの大手航空会社の経営再編を余儀なくさせている格安航空会社の中で最大規模の航空会社は1985年に設立されたアイルランド生まれのライアン航空(RYANAIR)である。1985年7月8日にウォーターフォードからガトウィックへの初飛行で誕生した同社は、現在、ヨーロッパと北アフリカで30か国に飛び、一日に1600便のフライト、315機を所有して74か所で航空基地を備え、9500人の従業員を抱え、年間の利用客は1億人という国際旅客数でも世界最大の巨大航空会社へと成長している。  さらには、今年7月には設立以来初めて、ひと月1000万人以上となる1014万人の乗客が利用したといい、今もなお好調さを維持している。  好調に乗客数を伸ばしているライアン航空だが、格安運賃への追求は止むことがなく、2012年1月には同社CEOのマイケル・オレアリー氏が「アイルランド航空局が立ち席でのフライトを安全として許可すれば、それを1週間で実施に移す」と発言するなどさらなるコストダウンに積極的に挑んでいる。  そう、同社は乗客が中腰の状態になって両肱をアームに持たれさせるようになった「立ち席」採用について、2009年からボーイング社に提案しているのだ。もちろん、さすがに長時間というわけではなく、仮にそれが実現したとしても、フライト時間が90分を越えない場合に限定されるようだ。しかし、これが実現すれば、シートとシート間の間隔を60cmにして1機あたりに搭乗出来る乗客数を増やすことができるようになるわけだ。  設備投資にも熱心で、昨年同社はボーイング社にB737MAX 200を100機発注し、2024年にはボーイング737型を540機所有することになるという。ちなみに、同一機材に集中するのは格安航空会社の特徴のひとつで、パーツのメイテナンスそして整備の手間を容易にするという狙いがある。そして、2024年には1億5,000万人の乗客に利用してもらうことを目標としているという。  もちろん、利用客を更に増やす為に昨年からサービスの向上も目指しているようで、利用客との規約の変更もしている。その一例を挙げると次のような項目だ。 *座席が事前に指定出来るようになった。 *これまでボーディングカードを乗客が事前にプリントせずにチェックインカウターで搭乗手続をする時には60ユーロ(7,800円)のチャージがかかっていたが、30ユーロ(1950円)に下げた。 *規定サイズ以上の荷物にはこれまで60ユーロのチャージが30ユーロになった。 *24時間以内であれば予約内容の修正が可能となった。これまでは変更には100ユーロ(13,000円)のチャージがかかっていた。 *乗客の家族の訃報や病気で利用出来ない場合は料金の返金を約束。これまでは如何なる返金もしなかった。 *オレアリー社長の物議を醸す発言も控えるとした。これまで彼は乗客を人間ではなく物品と看做した姿勢での発言が目立っていた。 『Expansion』によれば、これらのサービス向上で〈その成果が66%の利益向上に現れ〉、〈各フライトの利用率も88%にまで上昇した〉そうだ。  ライアンエアーの好調さとは対象に、大手航空会社は人員削減はうまく言っているとは言いがたい状況だ。  10月5日にはエールフランス航空が地上勤務員を対象に2900人の削減の為に労働組合と交渉を行なっていたが、一部従業員が乱入して交渉は中断した。そして交渉に臨んでいた2人の役員が、上着やシャツを引き裂かれて上半身をほぼ裸の状態にされるという出来事があったほどだ。  明暗がわかれる欧州の航空業界。大手航空会社は、この先どのような戦略を取っていくのだろうか。 <文/白石和幸> しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身
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