コミケ開催も危機に!? 3.4兆円の経済的損失にも繋がる東京五輪の「東京ビッグサイト問題」

photo by Tokumeigakarinoaoshima(CC0 PublicDomain)

 オリンピックで経済効果が期待されているが、実はオリンピックをやることで日本の中小企業が倒産し、経済的な打撃を受けることになる可能性が浮上しているのをご存知だろうか?  それが、東京ビッグサイトの五輪使用に伴う「展示会中止」リスクだ。  2015年9月11日に、日本展示会協会(以下、日展協)が、東京都の舛添都知事に要望書を出した。  同協会は、日本最大の展示会場『東京ビッグサイト』が、2020年東京オリンピックの際に計画通り準備期間を含め長期間、最悪1年にわたってオリンピック会場に使用され、その間、全ての展示会が中止になった場合、展示会出典企業や関連サービス企業に、倒産など極めて深刻な影響を及ぼし、社会問題に発展する恐れがあると危惧し、解決策として東京ビッグサイトの北側にある、東京臨海広域防災公園にプレス用施設(5万㎡)を建設することを提案・要望したのだ。 「東京都の招致ファイルでは、東京ビッグサイトがプレスセンターとして活用されるという案が書かれていました。もしこの案が現実となれば、その準備期間を含めて1年間使用ができなくなる可能性が出てきます。そうなると、毎年開催されている300本の展示会が中止になり、展示会での売上げに大きく依存する約9万社の中小企業の出展社や、1000社に上る関連サービス企業に深刻な影響が出てきます」(日展協会長補佐・田中嘉一氏)

中小企業の重要な「営業の場」である展示会

 東京モーターショーやコミケなど一般の人にも馴染みがあるイベントもさることながら、東京ビッグサイトで行われている展示会は毎年300本にも及ぶ。一般の人には、ある種の「イベント」的な存在だが、こと中小企業にとってはもっと重要な存在だという。 「実際のところ、さまざまな展示会は多くの企業にとっては大切なBtoBの『商談の場』なのです。広範な販売網を持たない中小企業では営業カレンダーに毎年の展示会が組み込まれており、それを中心に動いております。というのも、展示会は何万人ものバイヤーが集まる年間最大の『営業の場』なんです。もし仮に展示会が中止になったら、これらの中小企業約9万社が推定3.4兆円の売り上げを失い、倒産に追い込まれる企業が続出する恐れがあるんです」(同)  他にも、300本の展示会が中止になれば、展示会開催に関連する装飾・運輸・レンタルなどの関連サービス業への打撃や、宿泊や飲食、交通機関などへの関連消費3100億円や海外からの展示会参加者21万人を失うことになり、まさに「逆経済効果」になりかねないのだという。  そしてこれは、マンガやアニメの愛好家も直撃しかねない問題だ。展示会が中止あるいは減少すれば、「趣味」の範疇にされがちな同人誌即売会などは決して優先順位が高くない。となれば、同人誌を印刷する会社や、同人誌を作るクリエイターにも深刻な問題になるのだ。

ロンドン五輪では代替施設を建設

「実はロンドン五輪のときも展示会中止が社会問題化したため、展示会場がプレスセンターとしては使用されず、他の場所に新たに仮設館として建設されました。その結果、中止になった展示会は一つもなかったんです。現状、幕張メッセやインテックス大阪もすでに埋まっており、東京ビッグサイトの代替になる施設がなく、仮にプレス用施設を新たに作ってもその後展示会場として転用可能で、長年展示面積の不足に悩んできた問題も解消され、五輪後の経済成長に貢献できると思います」  実はこうした「逆経済効果」は必ずしも珍しいものではなく、96年のアトランタ五輪では、オリンピックによる混乱で、観光客により利益を得るはずのホテルやレストランはかえって商売が悪化している。「市の他の部分では、多くのホテルやレストランは、オリンピック会期中は通常より目に見えて売り上げが下がっている」とする調査報告がある。  また、アトランタでの会議開催と出席者数は、オリンピックまでの十年は着実に増えていたが、1995年から1996年には1割減っている。ホテルの客室稼動率はオリンピックがあったのに、1995年の72.9%から1996年には68%に下がったという。(参照:「オリンピック開催の費用便益推計:北京は2009年大会で何を期待できるだろうか?」ジェフリー・G・オーウェン・2005年/訳・山形浩生)  もちろん、日展協からの要望書を受けて、東京都も問題の深刻さを把握しているというが、リオ五輪が終わるまではIOCとの関係上具体的に事が決まらないという。  新国立競技場の建設など表面化した問題の他にも、2020年の五輪開催までに解決しなければその後の日本経済に大きな遺恨を残しそうな課題はまだまだあるのだ。 <取材・文/HBO取材班 photo by Tokumeigakarinoaoshima on Wikimedia Commons(CC0 PublicDomain)