ミニ四駆を実車化するタミヤの本気度

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実車ミニ四駆のモデルとなった「エアロ アバンテ」

 小さな頃、誰もが一度は手にしたであろうミニ四駆。そのミニ四駆が現在、第三次ブームを迎えている。そして、そのタミヤがなんと1/1スケールでミニ四駆を実車化させようとしている。そのモデルとなっているのは、シリーズ屈指の人気を誇る「エアロ アバンテ」。現在、タミヤの特設ホームページでは順次、製作過程を編集した映像が公開されているが、その筋のプロが集い、とても“お遊び”とは思えない力の入れようだ。実際、タミヤ本社には、F1マシンやワーゲンオフローダーなど、数々の実車が展示されている。  ひょっとして、この老舗模型メーカーは、日本で17番目の自動車メーカーになろうとしているのだろうか? タミヤがミニ四駆を実車化する理由を取材してみた。

ミニ四駆を広くアピールするために実車を製作

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ベース車を組み立て直して実車化している。見る人が見れば、このベース車もわかるそうだ

「いえいえ、自動車メーカーを目指す気はありません(笑)。でも遊びでもありません、本気でミニ四駆の実車を作っています」  突拍子もない質問に、笑いながらそう答えてくれたのは、タミヤの三輪一正氏だ。三輪氏が言うには、今回のミニ四駆の実車化は「現在、ミニ四駆を楽しんでいるファンと、かつてのブームで夢中になった人に、夢のある話題を提供するため」だと言う。  そして、現在のミニ四駆ブームは、1980年代に漫画『ダッシュ!四駆郎』に牽引された第一次ブーム、漫画『爆走兄弟レッツ&ゴー!!』に牽引された19690年代の第二次ブームに続くものだが、今回のブームは「ブームというよりは定着」だと続ける。 「今までのブームの主役は子供でしたが、今回のブームの中心は大人です。子供の頃、ミニ四駆で遊んできた人たちが、パーツの意味がわかる大人になった今、“大人の趣味”として、より深いところまで楽しんでいるようです。実車化プロジェクトを見て、もっと多くの方に、またミニ四駆を楽しんでもらいたいですね」  実車化プロジェクトの映像では、かなり凝った製作過程が映し出されているが、実は今回が初めてではない。第二次ブームの最中、1998年にも一度、ミニ四駆を実車化したことがあると言う。しかし「前回に比べて、今回の方がタミヤがより積極的に関わっていますし、車両自体もこだわり抜いて作っています。前回と同じくベースとなる車はありますが、フレームからすべて解体して一から組み立て、エンジンの位置やサスペンションも変えています。こだわりが強すぎて、当初の予定よりもかなり作業工程が増えています(笑)」

ミニ四駆を作るように実車化に没頭する製作スタッフ

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ミニ四駆の寸法だけを追っかけても、小さくなって見えてしまうため、実際の寸法よりも誇張して迫力を出している

 今回のミニ四駆の実車化プロジェクトには、レーショングカー設計士やドラッグレースメカニックなど、錚々たる面子が参加している。本来、直進するだけのミニ四駆を、左右に可動するベース車から作ることには、かなりの苦労を強いられているようだが、それでも「カッコいいミニ四駆を作ろうと、誰もがこの難題を楽しんでいる」と言う。 「ミニ四駆のパーツに、ガイドローラーというものがあるのですが、これは当時、少しでも速く走らせようと、子供がミニ四駆のフロントに洋服のボタンをつけたのが始まりだったんです。そんなアイデアも製作現場では生まれていて、実車製作とはいえ、ミニ四駆を作っているように、ああでもない、こうでもないと、アイデアを出し合いながら楽しそうにやってますよ」  実車版ミニ四駆は、まもなく完成予定だ。10月18日には、お台場のメガウェブで一般の方にお披露目することも決まっている。「いずれは、サーキットで実際に走らせてみたい」と三輪氏は夢を語る。  かつて限られたお小遣いのなかで、ミニ四駆を楽しんでいた世代が、大人になり金銭的に余裕が出て、心ゆくまでミニ四駆を楽しんでいる。タミヤのスタッフもまたしかり。一般人では実現し得ないミニ四駆の実車化を、会社のバックアップのもと楽しんでいる。そして、こういった遊び心を本気で取り組む会社でなければ、夢を与える業界のトップランナーとして走り続けることはできないのかもしれない。<文・写真/HBO編集部>