フォルクスワーゲン社の不正でディーゼル車は欧州市場から消える!?
9月30日付の記事で同紙のドイツ駐在員が、同社の本社があるフォルスブルグ市について〈恐れが街中を襲い「1週間、1台も販売されていない」という会話が不安の現われだ〉と報じている。しかも、〈9月に発表されたこの1年間の景気指標によると、デフレの徴候が現れたということで、同月の物価は0.2%下がった〉そうだ。。
同市の中心街にある電器屋の従業員は〈「市民は恐れている。みんな直接的または間接的にフォルクスワーゲンと関係しており、事体が明白になり、解雇がないと確信するまで、みんな最低限必要な物以外はお金を使わないという姿勢でいる」〉と記者に語ったという。また、ドイツ政府は〈同社のブランドイメージの悪化が回復不能にならないように手段を検討している〉とも報じた。
その一方で、今回の衝撃事件がドイツの国全体でどのような影響を及ぼすことになるかということについて、スペイン経済紙『cinco dias』がロイター通信のステファン・ウエルムット氏のコメントを掲載した。その中で、同氏は投資顧問会社のアクサ・インベストメント・マネジャーズ(AXA IM)が3つのシナリオを以下のように想定していることを取り上げた。
*フォルクスワーゲンによる今回のショック事件によって同社の自動車販売がドイツ国内で10%そして外国で20%下降した場合はドイツのGDPは0.1%減少する。
*ドイツの他社の車の販売も一緒に下降した場合はGDPは0.4%減少する。
*車だけではなく、ドイツ製品全体に影響を及ぼした場合はGDPで1.1%の減少を引き起こす。
更にAXAは、〈EU全体で現在50%の市場をもっているディーゼル車のサプライ市場が一時的か或いは永久にマイナス影響を受ける〉と指摘している。同様に、〈フォルクスワーゲンにパーツを提供しているフランス、チェコ、オーストリア、スペインなどで同様に影響を受けて収益減や雇用削減などが生じる可能性がある〉ことにも言及した。
このディーゼル車のサプライ市場への影響は、一時的なものなのか。それとも永久にそれが今後続くのだろうか? スペイン経済紙『LIBREMERCADO』は、ヨーロッパにおけるディーゼル車の終焉を想定している。〈2014年のEUにおけるディーゼル車のシェアーは53%、しかし乗用車だけに限定すると40%だ〉と同紙は指摘し、ドイツのコメルツ銀行が〈フォルクスワーゲンのディーゼル車の排気不正の陰は今後も長く続き、ディーゼル車の販売を止めるブレーキになるであろう〉と予測していることを挙げている。
同紙は更に、投資顧問会社であるアライアンス・バーンスタインも〈フォルクスワーゲンのスキャンダルはディーゼル車の終末を意味するものだ〉と述べていることを伝えた。その理由として〈EUの環境当局が2020年に導入を予定している排気ガス規制はより厳しいものなるであろうと推察していることと、大気汚染に有毒な窒素酸化物(NOx)の排出が更に問題視される〉ことになるからだとしている。
そして〈2008年の基準では米国は1km走行につきNOxの排出が43.5mgが制限となっているが、EUではそれが80mgとなっている〉と伝え、〈2017年に改定が予定されている基準は実際に走行している時のデーターが基になることによって、ディーゼル車が規定制限を満たすことは更に難しくなり競争力を失うことになる〉という。そして、それを規定限度に近づけるには排出ガスを浄化する装置にコストがかかり、〈小型ディーゼル車や安価なディーゼル車では生産が割高となり、競争力を失うことになる。そしてディーゼル車の市場はハブリッド車に取って代わることになる〉と言及している。
因みに、9月30日付『europa press』は、〈メルセデスのクラスA、C、Eが出す排気ガスはメーカーが謳っている数値よりも実際は53%多く排出〉しており、同様に〈BMW500シリーズやプジュー308は48%、トヨタオーリス18%、ルノートゥインゴ10%〉と報じている。
果たして、このディーゼル車スキャンダルはEU経済に今後どのような陰を落としていくのだろうか……。
<文/白石和幸 photo by Vanellus Foto on wikimedia commons(CC BY 3.0) >
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。
米国でのディーゼル車の販売の為に意図的に排ガス規制を逃れるべく米環境保護局(EPA)を欺いたフォルクスワーゲン社の不正の波紋は日本でも大きく報じられているが、当然のことながらフォルクスワーゲンの本拠地であるドイツを始めとするヨーロッパでは大激震となっている。
もちろん、筆者の住むスペインでも毎日取り上げられている。
スペイン紙『EL MUNDO』は、最悪の場合ドイツのGDPが1.1%下がるとの予測も
ディーゼル車の将来には暗い予想ばかり
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身
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