「アベノミクスという漫画は失敗作」。ロンドン・シティのアナリストがスペイン紙で指摘
El Confidencial』の中で述べ、失敗に終わるであろうことを予見した。
そしてダニエル・ラカーリェ氏は今年7月の同紙でも、〈日本の物価が上昇したことを上げ、逆に実質給与は21年前のそれに匹敵するレベルに戻っている〉と指摘した。即ち、これは景気の回復に必要な消費の伸びが期待出来ないことを意味する。人口も〈2008年から凡そ100万人減少している〉ことを上げ、〈消費者層において15-64才の層が400万人減少して、65才以上の層が400万人増加した〉と言及し、これは消費をリードする若者が減少していることを意味する。唯一、〈日本の債務を軽減することに貢献しているのは原油価格の下落だ〉と同氏は指摘した。
そしてS&Pが日本国債を格下げしたあと、9月18日付同紙で彼は、いよいよアベノミックスは失敗に終わったとして次の3点を上げた。
・過剰の負債: 物質的に過剰に満たされた状態である時に、慢性的な高額負債と消費者の高齢化が進む過程では、大胆な金融緩和は投資の促進には繋がらず、経済の成長はない。
・企業構造:低金利で資金の市場への投入で唯一潤うのは大企業だけである。日本の企業はヨーロッパと同様に、その90%は中小企業である。市場景気の回復がない状態で低金利の金融緩和は中小企業には如何なる効果も発揮しない。
・消費者の高齢化: 人口の高齢化が進んでいる中では、金融緩和は意味をなさない。そして消費税率を上げるよりも、旧態依然とした社会構造の改革を断行すべきである。
結論として、同氏は今後アベノミクスが逆転をすることが出来るとすれば、唯一実行されるべきは第3の矢である「民間の活力を引き出しての成長策」であるとしている。その中で〈生産力の回復、中小企業の成長支援、消費者の消費を活性化させること〉などを挙げている。
一方、この第3の矢の改革としてアルゼンチン電子紙『Infonews』は〈税率を下げること、女性の雇用の促進、自由貿易PTTへの加盟、労働の柔軟性、労働人口の40%が一時雇いなども影響して1997年から購買力は9%減少していることの修正〉などが必要だとしている。
安保法制の強行採決で政権の支持率が微妙になりつつある今、来年の衆参同時選挙に向けて経済政策の成功が重要な鍵となっている。果たして、富裕層だけでなく広い層に景気回復を実感させ、安保法制強行採決で揺らいだ信頼を取り戻すことが出来るだろうか。
<文/白石和幸 photo by Chatham House on flickr(CC BY 2.0)>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。
「大胆な金融緩和策」「機動的な財政策」「民間の活力を引き出しての成長策」の3つの政策を実施するという触れ込みのアベノミクスだが、2年半経過した今もなおその成果は目覚ましいとは言えず、S&Pは9月16日に日本国債を「AA-」から「A+」に格下げした。アベノミクスが失敗に終る可能性が強くなった証拠だ。
この経済政策はスペインでも注目されていた。2013年4月に、ロンドンシティーで活躍しているスペイン人経済アナリストのダニエル・ラカーリェ氏はこれを「漫画マネタリー政策」と呼んだ。その理由は〈お金を市場に投入し、市場を活性化させ、投資を促進し、負債を軽減して、雇用を生み、デフレからの脱却という漫画のストーリーに出るような事が綺麗に収まる理想を描いた政策だからである〉とスペイン電子紙『しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身
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