「月3万円ビジネス」の達人が教える「たのしい支出の減らし方」

「アベノミクスで景気が良くなった」と言われるが、消費税や年金支払いなどの負担もアップし、その実感は薄い。収入を増やすのは楽ではないが、支出を“楽しく減らせる”方法があるという。複数の「月3万円ビジネス」を掛け持ちして生計を立てている人が講師となり、「たのしい支出の減らし方」というワークショップが都内で開かれた。

「服を着たまま入浴」などの荒技も紹介

「たのしい支出の減らし方」の一例

「たのしい支出の減らし方」の一例。冷蔵庫をクーラーボックスに置き換えて電気代を減らす

 主催したのは千葉県木更津市に住む前田敏之さん。前田さんは福島県郡山市内で商店を営んでいたが、3・11を機に関東へ避難。現在、木更津市内の里山をフィールドに無農薬の米作りや「月3万円ビジネス」などをしながら暮らしている。  月3万円ビジネスとは、発明家で「非電化工房」主宰の藤村靖之さんが提唱する働き方のこと。人に喜ばれる、地域の困りごとやニーズを解決する小さなビジネスを興し、楽しみながら稼ぐことを目指す。実際に前田さんは「米作り教室」「月3万円ビジネスを育てるワークショップ」、ITのスキルを活かした「ウェブサイト構築支援」など、いくつもの小商いで生計を立てている。  そんな前田さんが教える支出の減らし方とは? 例えば携帯電話やネット接続に毎月支払う料金については、「スマホをガラケーに変えれば電池の持ちも良く、毎月の支払いは1500円ほどで済みます。ネット接続費も中古のタブレット端末とデータ専用SIMで節約できます」(前田さん)。  家電製品の使用を控えれば光熱費の支出を減らせる。ご飯は鍋や圧力釜を使うほうがおいしく炊ける。冬の暖房も、温風が苦手な人はエアコンからガスストーブに切り替える手がある。掃除機をホウキとちり取りに置き換えれば電気代ゼロだ。  ユニークなのは「服を着たまま風呂に入る」というもの。これだけ聞くとギョッとするが、要は風呂に入ったついでに衣類をこまめに手洗いすれば、洗濯機を使う回数を減らせるということだ。衣類の汚れは水よりもお湯のほうが落ちやすいという点で、理にかなってはいる。実行に移せる人は多くないだろうが……。

支出を減らすには、自由な時間が必要

ワークショップ

ワークショップにはIT関係者の参加が目立った。右端が前田さん

 支出の多い生活は、その分だけ多く稼がなければならない。一方、継続して支出を減らすには、ガマンを伴わないことも不可欠だ。そのための工夫(試行錯誤)がたのしみ(愉しみ)になり、実際に支出が減れば達成感も得られる。  すると支出のために働く時間を減らせるから仕事も少なくでき、高い賃金はいらないので選べる仕事の幅も増える……というのが「たのしい支出の減らし方」の極意というわけだ。  しかし、この工夫やたのしみを生み出すためには、自由な時間が必要となる。現実には、低賃金で長時間働かせるブラック企業・ブラックバイトが横行する昨今、雇用される働き方のままで「たのしく支出を減らす」ことは簡単ではない。そこで前田さんは次のように説明する。 「仕事、趣味、地域参加などの社会活動、遊び、家族サービス。これらをひとつにまとめていくと、少しずつ自由な時間ができて、支出も減っていくと思います」  つまり「たのしく支出を減らす」ことを突き詰めれば「仕事が遊びで、しかも地域への貢献や家族サービスでもあるように働く」、すなわち生活全体の見直しも必要になる。参加者の一人で、非電化工房の「地方で仕事を創る塾」にも通ったという弁理士の女性は「月3万円ビジネスを知ることで、生き方そのものを見つめ直す機会になった」と話す。  誰もが前田さんのように生活できるとは思わないが、会社勤めや一般的な自営業とも違う「支出の少ない生計の立て方」もあると知れば、生き方の幅は広がるはずだ。 <取材・文・撮影/斉藤円華>