タイの医療ツーリズム業界を縮小させた、日本人による「ある事件」
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自国で受けられない治療や、物価水準の差で安く治療を海外で受ける医療観光(医療ツーリズム)というビジネス形態が世界中で行われている中、タイでも一時期は大きな私立病院では盛んに外国からの患者を受け入れていた。英語だけでなく、日本語や中国語、アラビア語などの通訳を用意しているほど、受け入れ態勢は万全であった。しかし、ある日本人の事件がきっかけで、タイの医療観光はやや後退しようとしている。
その事件は2014年8月に発覚した、日本人男性による代理出産の悪用だった。当時24歳の日本人男性が複数のタイ人女性らに代理出産で十数人の子どもを産ませていたのだ。当時の法律の隙間をついたものだったために男性は逮捕されていないが、この問題が影響し、今年2月19日にタイの暫定議会が外国人夫婦による体外受精を禁止する法案を賛成多数で可決した。そして、その翌日にタイでは体外受精とそれに伴う代理出産が一部禁止になったのであった。
このとき成立した法律では、外国人がタイ国内で体外受精を行う場合、タイ人が提供する卵子での治療は禁止としている。つまり、同じ国籍のドナーであれば問題ないので、日本人患者であれば日本人ドナーから卵子提供を受ければ治療できるという解釈になる。とはいっても、現状タイにおける日本人の卵子提供者は100人程度なので、少なくとも日本人がタイで代理出産を望んでもその門戸は確実に狭くなった。
また、精子提供を受けての体外受精や着床前遺伝子診断CGH法(初期胚の全染色体の不均衡を検出するテスト)は現在のところ法的な制限はないが、同診断のFISH法(染色体を特殊な蛍光色素で染色して蛍光顕微鏡で異常を識別する)は産み分けが可能なため、同法案で禁止が確定している。
タイで代理出産のサポートもしてきた「J web Creation」はこの事件で影響を受けた医療観光の受け入れ業者のひとつだ。代表の横須賀武彦氏はこの事態はタイ医療業界に悪影響があると重く考えている。
「まず代理出産の制限は卵子提供者が保有する所有権などを完全に無視したもので、この法案ではそういった問題は無視された状態です。また、この制限は専門家の流出に繋がり、代理出産だけでなく、タイ医療業界の衰退を招く可能性があります」
これまでわりと前向きに受け入れを行っていた業界が縮小するので、タイの代理出産に関係した技術を持つ人々がタイを離れ、近隣諸国――例えばシンガポールなどに行ってしまうことが考えられるわけだ。
「特にアセアン経済共同体が年内に発足予定ですから、専門家がいっそうタイ国外の医療施設に移籍することが容易になるかもしれません」
<取材・文・撮影/高田胤臣(Twitter ID:
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たかだたねおみ●タイ在住のライター。最新刊に『亜細亜熱帯怪談』(高田胤臣著・丸山ゴンザレス監修・晶文社)がある。他に『バンコクアソビ』(イースト・プレス)など
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