難民を迫害し、排外主義的傾向を一層強めていくハンガリーのオルバン政権

photo by EPP(CC BY 2.0)

 フランスの極右政党であるの国民戦線のマリーヌ・ル・ペン党首は、バルス仏首相の難民を受け入れる姿勢に対し、<「難民認定の権利が余りにも柔軟過ぎて、最終的には不法入国者はそのままフランスに留まってしまう。何故なら、その僅か1%しか本国に送還されないからだ」>と述べている。外国人排斥を主張するル・ペン党首はEU域内での移動の自由を認めるシェンゲン協定の全廃を訴えている。(参照:「エル・デイアリオ」紙)。  そしてそんなル・ペン以上に外国人排斥を実行しようとしているのがハンガリーの右派連合「フィデス=ハンガリー市民同盟」を率いるヴィクトル・オルバン首相だ。オルバン政権は、EUに加盟しておりながら、あたかも加盟国でないかのように連携を避けて独立性を維持しようとしている。その意味でも彼はシェンゲン協定には賛成できない考えでいる。  スペイン紙「エル・コンフィデンシャル」によれば<今年6月には、ハンガリー政府は800万の家庭に不法移民についてのハンガリー人の考えを問うアンケート調査を実施している。そのアンケートの質問内容には不法移民とテロリズムを結びつけようとする狙いが窺われていた>という。ブダペストの国連難民難民救済高等弁務官事務所(UNHCR)のエフェ・エモ・サイモン氏は<「ハンガリー国内で難民への敵対意識が増加していることが気がかりだ」>と語っている。

入国した難民を劣悪な収容所に押し込め管理するオルバン政権

 難民を排斥しようとするハンガリー政府はセルビアとの国境175kmにわたる高さ1.5メートルの有刺鉄線網の建設を行い、8月31日に完成した。しかし、その効果は薄いとして、11月には高さ4mの頑丈なフェンスを設けるという。  さらに、不法入国者として警察に拘束された者は難民収容所に送られている。  スペイン各紙の報道によれば、<中央の難民収容所センターには200個の軍隊のテントも張られ、収容可能人員1000人のところに既に3000人が収容されている>という劣悪な環境だ。しかも、<政府は難民が指定の収容所から無断で移動した場合には懲役1-3年の刑を課す法案を近く議会で承認させる意向である>とされ、一旦収容されると、難民受け入れが受理されて移動の自由が容認されない限り、そこから出ることが出来なくなる>のだ。  ハンガリーに入る大半の難民にとってハンガリーは単なる通過国でしかない。だから難民受け入れ申請をハンガリー国内でするのを避ける傾向にある。しかし、オルバン政権は一旦入国した難民は完全にコントロールしようとする姿勢なのだ。これに対してEU委員会は人権の尊重を訴えてオルバン政権の独裁的姿勢の改善を要求している。 (参照「abc」紙 、「エル・パイス」紙、「エル・パイス」紙)。  その一方で、「パブリコ」紙によれば、<8月31日には、ハンガリーの首都ブダペストからオーストリアのウイーンに向かう列車に3,650人が乗車して最終目的地ドイツを目指して出発した>という。しかしこれも、<9月1日になると、駅を警官が封鎖して、乗車券をもっている数千人の難民の乗車を拒否した。難民らは駅周辺に集まり、『ドイツだ、ドイツだ』と叫んだ>そうだ。  こうした状況を受けて、ハンガリー国民の間には「我々の社会保障を横取りする為に来た」「クリスチャンのヨーロッパに、遂にイスラムが侵略に来た」といったことを言う市民も出ている。  こうした国民の間に募る根拠なき不安をさらに煽り、オルバン政権はその極右的性格をますます強固なものにしていくだろう。 <文/白石和幸> しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなしていた。
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身