船橋の素朴な公園は、なぜUSJを抑え、日本3位のテーマパークに選ばれたのか?

アンデルセン公園01 今年7月、世界最大級の口コミサイト・トリップアドバイザーの「世界の人気観光スポット2015 テーマパーク部門」で、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンを抑え、東京ディズニーランド、東京ディズニーシーに次ぐ日本3位に選ばれたテーマパークがある。それが、船橋からバスで40分の場所に位置する「ふなばしアンデルセン公園」だ。  あまり耳にしたことのないこの公園の快挙に、メディアは騒然。Yahoo!ニュースやテレビもこのニュースを取り上げ、アンデルセン公園は一躍“時の公園”になった。しかし、なぜ船橋の外れにあるこの公園が、並みいる有名施設を押しのけ、日本3位のテーマパークに選ばれたのだろうか? 「テレビ局から電話があるまで、職員は誰も知りませんでした。『えっ、そうなんですか?』って感じでした(笑)」と、当時を振り返るふなばしアンデルセン公園長・細谷順子さんに取材し、この公園の魅力を探ってみた。

平成19年に全国都市緑化フェアをきっかけに入園者が急増

アンデルセン公園02

美術館にて。「単なる遊戯施設ではなく、この公園が子供たちの才能を広げる施設になれば」と夢を語る細谷園長

 昭和62年に「わんぱく王国」として誕生したこの公園が「ふなばしアンデルセン公園」に生まれ変わったのは、平成8年のこと。それまでは、現在のワンパク王国ゾーン(体育会系親子連れ向き)にあたる部分しかなかった園内に、自然体験ゾーン(年配の方向き)、花の城ゾーン(幼児向き)、メルヘンの丘ゾーン(万人向き)、子ども美術館ゾーン(文化系親子連れ向き)が追加され、公園の敷地は2〜3倍に拡張。それに合わせて、駐車場も増設したという。  とはいえ、絶叫マシンがあるわけでも、人気キャラクターがいるわけでもないこの施設が、なぜ外国人観光客が利用することの多いトリップアドバイザーで高評価を得ることになったのだろうか? 「外国人観光客というよりも、船橋には外国人の方がたくさん住んでいるので、そういった方々が利用してくださり、この公園を他の外国人のお友達に薦めてくれたり、トリップアドバイザーに書き込みをしてくださったんじゃないでしょうか。外国人の方のなかには、年間パスポート(一般2000円、幼児400円)を購入される方もいらっしゃいますよ」
アンデルセン公園03

園内で一番人気のワンパク王国ゾーン。連日、親子連れで溢れている

 もちろん、外国人に人気があるだけではない。トリップアドバイザーには、「安くてもくつろげる」「日本一楽しい普通の公園」などといった声が多く書き込まれ、近隣に住む住民にも愛されている。 「入場料は、一般900円、高校生600円、小・中学生200円、幼児100円に設定しています。入園者の平均客単価は、入園料を含め1人約600円。この辺も、近隣の住民の方に、何度も足を運んでいただける理由の一つなのかもしれません」  同じく千葉に施設を構えるディズニーリゾートの客単価が約1万円と言われることを考えると、この客単価はまさに破格といえるだろう。 「それと、船橋で全国都市緑化フェアが開催された平成19年に、公園にたくさんの花を植えたことがあったんです。すると、この年の入場者数が急激に増えたので、それからは園内のいたるところに花を植え、一年を通して、季節の花が楽しめる公園にしています。その甲斐あってか、それ以降、入場者数も着実に増え続けています」  東北大震災が起きた平成23年には、ネット上に放射能汚染の噂が広がり、一時、入園者数が減ることになるが「ホームページ上で定期的に放射線測定を公開し、みなさんに安心してもらえるよう努めた」こともあり、平成26年にはついに年間入園者数が60万人を超えたという。

ストレスがないことがこの公園最大の魅力

アンデルセン公園04

シートを敷いたり、テントを張ったり、園内で制限されていることは、他の公園と比べて圧倒的に少ない

 子供連れのお客だけでなく、年配の方も多く訪れているアンデルセン公園。園内には、至るところにテントが張られ、シートを広げお弁当を囲う人もおり、誰もが思い思いにこの公園を楽しんでいるように見える。 「この公園の最大の魅力は“ストレスがないこと”だと思うんです。火器の使用など、いくつか持ち込みや使用を禁止していることはありますが、テントやシートはどこで使ってもいいし、お弁当や飲み物の持ち込みも自由です。あと田舎なので、周りに高い建物もなく、本当に緑の中に包まれている気になれるんです。ストレスの多い日常を離れ、子供だけでなく、大人も開放的になれるのが、お客さんに喜ばれている一番の理由なんじゃないでしょうか」  また、公益法人ゆえの制限が、ストレスフリーな職場環境を作っている面もあるようだ。
アンデルセン公園05

アウトドアな施設だけでなくインドアな施設も充実。なかには、アンデルセンの物語の登場人物となり、子供が演劇を楽しむ施設も。たった300円で、衣装の貸し出し&メイクを施してくれる

 「おかげさまで入場者数は増えていますが、公益法人なので、うちの公園は儲かっちゃいけないんです(笑)。なので、儲かった分は還元しないといけない。還元方法は、まず、無料入園者数を増やしたり、入園料を下げること。次に、園内のサービスを充実させることになります。でもサービス面では、ハード部分(施設の増設)は市がやっているので手をつけられないので、ソフト部分(イベントを行うなど)で入園者に還元できるようにしています。そのアイデアを職員が自由に提案し、実現できる環境にあるので、職員も楽しく仕事をしていますし、それが毎日笑顔で接客できている理由なんじゃないかと思います。それと、トリップアドバイザーでは3位に選んでいただきましたが、そのプレッシャーも特にないんです。『このあとどうしましょ?』『もう落ちるだけかも』なんて笑いながら、毎日楽しく仕事をさせていただいてます(笑)」
アンデルセン公園06

細谷園長(右)と職員の皆さん。ディズニーランドのキャストと同じくらい、みんな笑顔が絶えない

 入園者も職員も笑顔が絶えない、ふなばしアンデルセン公園。今年もトリップアドバイザーで1位、2位を独占したディズニーリゾートでは「どうすれば、客やスタッフがうれしい気持ちになれるかを考える」ことを日々心がけているという。規模や事業形態こそ違えど、ふなばしアンデルセン公園にもまた、“誰もが幸せになれる”経営の形が形成されているようだ。<文・写真/HBO編集部> ふなばしアンデルセン公園ホームページ:http://www.park-funabashi.or.jp/and/