ドイツでも日本でも修理困難だった携帯が中国で即日対応だった理由とは?

大連のサムスンの委託代理店

 日本でも、ドイツでも、香港でも対応できなかったことが中国ではできた。それも拍子抜けするほどあっさりと――。  某日、サムスンの香港版「ギャラクシーS6」を中国最大のオンラインショップサイト「淘宝網」で購入した。購入価格は1000元(約2万円)。この安さの秘密は、中国本土では未発売の途上国向けの低価格モデルだからだ。指紋認証などの最新機能を削り、安く提供するモデルを香港の業者から買い付け中国本土の顧客へ販売しているものだ。  格安とはいえCPUなどの基本スペックは同じなので動作はサクサクで快適だ。しかも非中国モデルなので、グーグルへの規制もなく、グーグルプレイへもアクセスできるため中国在住日本人は香港版を好む人も少なくない。  しかし、このS6は、非中国モデルのため初期セットアップは、香港を含む中国国外か外国製SIMカードを挿入した状態で行わないと正しく動作しないという事前情報があり、購入後は、しばらく放置していたがそれから2週間ほどしてドイツのフランクフルトへ出張する機会があり、使ってみることに。

フランクフルトの携帯ショップ

 ところが、フランクフルトで初期セットアップして使い始めると背面カメラの正方形のガラスカバーが外れてなくなっていることに気づいた。ドイツでカメラがむき出しの状態になってしまったのだ。  このままではレンズを痛めてしまうので、フランクフルト最大のサムスン専門店を探し訪れてみた。店内の40代くらいの小太りな白人男性店員へ本体を見せてこのカバーがあるかを尋ねると、「このカバーは保守パーツではないので、ここにはない。預かっての対応となる」という。  預かり期間は約2週間。出張で数日滞在なので、何とかならないかと食い下がるも、「このままでも普通に使えるから問題ないよ」とまとわりつくハエをあしらうように店員は笑いながら言い放った。

日本でも香港でも渋い対応……

 戻りの経由地は香港。香港はこの端末の故郷なので多少期待しつつ香港のサムスンショップで同じことを尋ねるも、ドイツと同じ回答だった。  しかも工場が香港にないらしく、中国本土へ運んでの対応となり預かり期間は2、3週間とドイツよりも時間がかかるようだ。古くからSIMフリー端末を販売していることで知られる香港は、端末売り切り型の商売スタイルなのかもしれない。  香港滞在のついでに日本のサムスンジャパンのカスタマーセンターへも問い合わせた。香港購入モデルと伝えた後の女性オペレーターの第一声は、「サポート外のため対応できない」というさらにクールなものだった。  翌週、1週間ほど帰国予定があるので、日本で対応してくれる場所がないかも合わせて尋ねるも、「日本での保証がないため対応できない。仮に対応するとしてもユーザー交換パーツではないので、工場預かりでの修理となり、2、3週間はかかる」とのことだった。

対応に時間がかかる修理があっさりと……

大連一の電子街「オリンピック広場電子城」

 煮え切らない思いを抱きながら中国大連へ戻り、翌日、大連最大の電子街「オリンピック広場電子城」へ行き、サムスンのスマートフォンを扱っているショップでパーツの有無を尋ねたところ、「ここにはないが、サムスンの修理センターがあるから案内する」と言われ、連れて行ってくれた。  1度地上に上がった電子城の対面にその建物はあった。どうやら大連の会社がサムスンとマイクロソフトの委託代理店を務めているようで、2社で建物が分けられている。  修理センターは3階とのことで、案内してもらいドイツ、香港、日本と同様にパーツの有無を尋ねと、「ある。ただし、取り寄せに2日間かかる」と予想外な回答だったので、喜んで承諾すると、ガラス戸で仕切られた奥からサムスンのポロシャツを着たエンジニアと思しき男性が、何色と聞いてきたので、担当者が白と答えると、ここにあるよと袋で小分けにされたパーツを見せてくれた。

受付と修理工房がある3階修理センター

 エンジニアは、端末を奥の部屋へ持って行き、ブロワーでゴミを吹き飛ばしパーツ装着。本体の起動テストと軽い清掃をして15分足らずで戻ってきた。保証は3か月間あり、修理費用は部品代込みで120元(約2400円)。中国の物価を考えると高いが、代理店なので妥当なのかもしれない。  日本でもドイツでも香港でも対応できなかったが中国で対応できるのは実に不思議な感じだがユーザーとしては非常に有り難く妙に興奮を覚える。  大連では、購入国や保証の有無も一切尋ねられていない。他国、特に日本から見るとありえない対応だろう。  筆者は、以前パソコンメーカーの保守担当を経験しているのでよくわかる。在職時は、顧客の保守契約情報を確認し、無料有料やユーザーが交換できる(とメーカーが決めた)パーツなどを判断していた。  たとえば、ノートパソコンのキーボードのキートップ1つが紛失しても送れず、パソコンを工場で預かってのキーボード丸ごと交換対応となる。なぜなら、内部分解になるためキーボードを部品送付することができないのだ。しかも、ユーザー過失となり有料なので、作業代含め3万円は越えてしまうのだ。メーカーとしてはコンプライアンスなどさまざまな手続き上仕方ないのだが、ユーザーからするれば、不満に感じるのは当然かもしれない。  つまり、日本は、コンプライアンス順守の契約社会な面が強く、前述したような対応は当然であり、サムスンジャパンの対応もまた当然の対応なのだ。  中国の対応が至極良かったのは、言い換えれば中国はそれらの点が未発達であることが挙げられる。そして、機械類に限らず故障が多く、メンテナンスの頻度が多く、日本と比べるとあらゆる物の劣化スピードが早いため、それだけ、修理や保守に慣れているとも言えるのだ。全体的に保守スキルが予想外に高いのは、ニセモノ作りから生かされたものだとも言われる。  どちらがいいかはなんとも言えんが、結果としてはユーザー目線では非常に助かった「中国的エピソード」であった。 <取材・文/我妻伊都(Twitter ID:@ito_wagatsuma