マフィアも乱入! 台湾・学生デモはなぜ起きたのか?

 3月18日に台湾で起きた学生らによる国会議場占拠。日本のテレビでも連日、混乱する様子が報じられたが、果たしてなぜ国会議場選挙は起きたのか?

大規模デモを招いた馬英九の密室外交

ひまわり学生運動

台湾・ひまわり学生運動(日本語公式サイト)より

 事の発端は、中国が80分野、台湾が64分野を互いに市場開放することを取り決めたサービス貿易協定だ。この協定を巡り、立法院委員会での審議が打ち切られ、強行採決に持ち込まれたことで事態は紛糾。馬英九政権は中国との貿易自由化を段階的に進めており、昨年6月に同協定の取り決めに署名したのだが、これを密室外交として野党だけでなく、与党国民党からも非難の声が上がったのだ。  同協定で自由化される台湾側64分野には金融、医療、食品、生活用品、商店、印刷、出版、新聞、書店といったサービス業全般が含まれる。しかし、具体的な条件などは不透明で、巨大な中国資本と中国本土からの労働者の流入によって台湾の中小企業は打撃を被ることにもなりかねず、また、メディアに中国が介入すれば言論の自由が侵害され、ひいては台湾が経済的に中国に呑み込まれる恐れもある。そのため野党民進党が猛反発したのだ。  しかし、立法院委員会で審議されていたが3月17日、与党国民党は時間切れとして一方的に審議を打ち切り、強行採決へと持ち込もうとしたことでさらに事態は紛糾してしまう。こうした一連の流れに危機感を募らせた学生らが「黒箱(ブラックボックス。密室)協定」だと政府を批判、同協定の撤回を求める「ひまわり学生運動」を発動。3月18日に1000人もの学生達が立法院に雪崩れこみ、占拠したのである。

日当500元(約2000円)で雇われたマフィアが乱入

 23日夜には行政院に押しかけた学生らを排除するため、警官隊が放水や警棒で殴打するなどの暴力的な鎮圧を行い、負傷者が多数出る流血事件が発生。これが結果として台湾の国民の怒りに火をつけることとなった。こうした一連の流れを受けて、ニューヨークなどでも台湾人達がデモを行い、本国の学生達にエールを送った。あまり報道されていないのだが、もちろん日本でもこれに呼応する抗議デモが起きた。3月26日に「頑張れ日本!全国行動委員会」や「台湾研究フォーラム」などの団体が呼びかけて都内の台北経済文化代表処(台湾大使館に相当)前で行われ、支援者約300人が参加した。  3月30日には学生たちの呼びかけで台北市中心部にある総統府前のケタガラン大道に主催者発表で50万人を超える学生と市民が大集結。黒シャツをまとい運動のシンボルであるひまわりの花を携えて台湾全国から集まった民衆は、「サービス貿易協定を撤回せよ」「台湾の民主を守れ」のシュプレヒコールを挙げた。この日は日本や香港、アメリカなど世界16カ国49都市でも台湾人留学生が集会を行ったのである。  ただでさえ紛糾しているこの異常事態に拍車を掛けたのは台湾マフィア・竹聯幇だ。その有力者が学生排除に乗り出すというありえない事態に発展してしまったのである。3月31日、台湾マフィア・竹聯幇の有力者で中華統一促進党総裁の張安楽が国民党関係者や労働組合幹部とともに台湾労工福利聯盟名で記者会見を開き、「学生の手から立法院を取り戻す」ため4月1日に2000人を動員して立法院突入デモを決行すると気炎を吐いたである。  このデモを呼びかけた張安楽は「白狼」の異名をもち、要注意人物として台湾では知られた名前である。張は麻薬密輸の罪で米国で服役後、指名手配を受けて中国に逃亡。実に17年間の逃亡生活の末、中国籍を取得して昨年6月に台湾へ戻ってきた曰く付きの人物なのだ。現在は保釈金を支払って保釈中の身の上、中国籍であり犯罪者でもある人物の政治活動を野放しにしたことで馬政権に対する批判がさらに高まってしまったのである。  さらに張率いる協定賛成派のデモは、一人当たり500元(約2000円)の日当で動員していることがフェイスブックで事前に発覚。当日は警官隊も増員され厳戒態勢が敷かれたものの、実際には400人程度しか集まらなかったという間の抜けた結果に……。おまけに現地で失笑を招いたのは、白狼の発言だ。  学生や支援者から「ヤクザは帰れ!」などと野次られて頭に血が上った白狼は「“中国人”の風上にもおけんヤツらめ!」や「お前たちは中国にとって不要な存在」と口走ってしまったため、ネットで「俺たち、台湾人だけど?」や「頭おかしいんじゃないか。中国へ帰れば?」と逆に批判される始末。だが、台湾在住作家の片倉佳史氏はこのような憂慮も吐露した。 「運動に参加する学生の約30~40%は女子学生。ヤクザの登場で心配になった親たちが子供たちを運動から引き離そうとする可能性もある。これは明らかに運動を分断しようとの攪乱工作なのです」  当初強硬姿勢を見せていた馬英九総統は、学生支持の世論の高まりを受けて委員会審議を延長再開することを決めたが、「同協定は撤回しない」との強硬姿勢を崩さず、野党の猛反撥を受けて審議の進行が難航している。行政院(内閣)で3日、「台湾・中国大陸間取り決めに関する処理および監督条例」草案が閣議決定されたが、学生達は「形式的なもの」として反撥。6日には王金平立法院長が突如立法院を訪問して学生と対話し、事前監督制度の法制化を急ぎ、それまでは同協定の承認手続きを進めないとの考えを伝え、立法院からの退去を求めた。  支持率が10%前後に落ち込んだ馬英九総統は、かなり切迫した状況にある上に中国からの猛烈な圧力がかかっており、同協定を何が何でも死守しようとの意向だ。馬英九総統が所属する国民党は本来、反中国共産党、大陸反攻を党是としてきたが、近年では大国化する中国と経済交流を進め、蜜月関係を築いてきた。また、中国に投資する台商(在中国台湾ビジネスマン)や資本力のある大企業は中台間の経済交流を促進させたいため、馬政権を支持し今回のサービス貿易協定にも賛成している。  だが、台湾製造業の空洞化と中国への経済依存が高まる中、一般国民は給料も上がらない上に、中国人投資家を見据えた豪華マンション乱建設による不動産価格の高騰の一方で、家も買えない状況にある。さらに最近、ロシアがクリミア半島を「住民投票」の手段によって併合したことを真似て、習近平も台湾併合の魔の手を伸ばしてくる危険を、台湾人は本能的に察知しているのであろう。  かつて天安門事件の際、広州学生運動のリーダーを務め、足かけ4年にわたって投獄された後、現在米国に亡命している陳破空氏(扶桑社刊『赤い中国消滅 張子の虎の内幕』著者)は今回の台湾の学生運動をこう分析する。 「学生たちが撤回を求めていたサービス貿易協定は密室協議であることのほかに、その本質的な内容が問題でした。台湾側の開放項目にはメディア出版業界も含まれる。中国は台湾メディアに対し厳しい制限を課しているのに、中国のメディアは台湾で好き勝手にプロパガンダを宣伝できるということになる。台湾政府も中国政府も、この協定が『台湾の国際競争力を高め、台湾人民に利益をもたらす』といっているが、実態は『中国の国際競争力を高め、中国共産党に利益をもたらす』もの。これは単なる経済協定ではなく政治の問題。台湾の学生が抗議しているのは、まさに密室協定の奥に潜む中国共産党の陰謀に対してであり、彼らは台湾の尊厳と自主、そして民主の価値を守るため闘っていたのです」 ⇒【後編】に続く「理路整然とした学生達のデモに賞賛の声も……」 <取材・文/山田智美>
赤い中国消滅 張り子の虎の内幕

中国共産党の内情から尖閣問題、対日政策など崩壊寸前のあきれた国の実情とは?