【JR東日本vs東京モノレール】羽田空港延伸を巡り“親子喧嘩”勃発

 親子間での仁義なき戦いが幕を開けた。 モノレール 去る8月19日、国土交通省交通政策審議会の席上で、JR東日本が東京・新宿・新木場から羽田空港を結ぶ羽田空港アクセス線の計画を発表。同時に東京モノレールが浜松町から東京駅までの延伸構想を明らかにした。東京モノレールは、JR東日本が株式の79%を保有する。つまり、れっきとしたJR東日本の子会社である。つまり、その親会社と子会社の間で羽田空港利用客を奪い合う、そんな戦いが勃発したのだ。  鉄道業界誌で編集長を務めるAさんは言う。 「もともと羽田空港へのアクセス鉄道は、東京モノレールの独壇場でした。1964年、東京オリンピックを控えて開業し、1998年に京急が本格的に空港に乗り入れるまでは空港に直接アクセスできるのはモノレールだけだったんです。近年は京急と熾烈な乗客の奪い合いを繰り広げてきましたが、ここにきて東京モノレールの親会社であるJR東日本本体が参戦してきた。その理由としては、今後も羽田空港の利用者は増加が見込まれており、アクセス線は黙っていてもカネが入る“ドル箱”だと考えたからでしょう」  両社の具体的な構想は次のようなものだ。 「JR東日本は、羽田空港付近の地下を通る東海道貨物線とりんかい線を経由して東京・新宿・新木場を結ぶもの。現状は国内線ターミナルへの乗り入れのみの計画ですが、それでも総工費は約3200億円を予定しています。一方、モノレールは浜松町から山手線の西側に沿って東京駅まで延伸し、東海道線の真上にホームを設ける構想。モノレールは建設費が安いので、約1095億円と試算されています」  双方のプラン、果たして実現性はどうなのだろうか。 「JR東日本はほぼ確実にやるでしょう。モノレールにいくら乗客が集まっても、所詮は子会社。JR東日本の利益にはあまりつながりません。休眠中の路線を利用できるメリットもあるし、オリンピックを控えて東京都もその気になっています」  しかし、一方のモノレールの実現性はほぼゼロに近いという。 「建設予定地は東京国際フォーラムなどの建築物が近接していますし、JR線の真上に建設するにはJR東日本の許可が必要。いくら子会社とはいえ、自社の乗客を奪う路線建設に協力するとは思えません。仮に延伸しても東京~空港の所要時間は約20分で、JRの構想の18分と比べると時間がかかる。乗客を確保できる見込みも立ちません」  では、東京モノレールは実現性が薄い構想をなぜここにきてぶち上げたのか。 「おそらくJR東日本へのあてつけでしょう。JR東日本の羽田アクセス線構想は、昨年秋に発表されて今年6月の株主総会でも明らかにされるなど、少しずつ外堀を埋めてきた。これに対し、親会社に乗客を奪われそうになったモノレールが反発して今回の構想をぶち上げたのでは」  東京モノレールの関係者も、「JR東日本の計画がどんどん進むことへの焦りはある」と明かす。 「JR東日本からは羽田アクセス線の構想などについて事前の相談はほとんどない。トップ間では何かしらあるのかもしれませんが……。それでもウチの未来を左右する計画なので、何かあってもいいとは思う。こうしたJRの姿勢に少しでも一矢報いたいと思って、今回の構想を発表した部分はあるでしょう。もともと構想自体がないというわけではありませんが、どの鉄道事業者も持っている『延伸するならこの辺に』という夢物語みたいなものですよ」  また、建設業界紙の記者は、「これらの動きはある意味東京五輪バブル」と話す。2020年の東京オリンピックに向けて、JR山手線の新駅計画や今回の羽田アクセス線構想などが次々に登場している。 「50年前の東京五輪で新幹線やモノレール、首都高ができたように、今回の東京五輪でも建設バブルを期待する向きは多い。『オリンピックのために』と言えば大義名分が立ちますし、世論の同意も得やすいですからね。特に、羽田アクセス線は五輪の規模縮小を打ち出している舛添東京都知事も乗り気なので、今後は実現に向けてどんどん進んでいくことになるでしょう。その中で、モノレールも“あわよくば”という思いで構想を発表したのだと思います」  現時点では、五輪会場が多く設置される予定の新木場方面と羽田を結ぶ路線を優先して建設する予定だとか。  親会社と子会社の戦いは、既に親会社の圧勝に終わりそうな気配だが、今後東京モノレール側がいかに親への抵抗を続けていくのか、注目したいところだ。 <取材・文・撮影/境正雄>