市販のドローンは“兵器”となりうるのか? 過剰な規制で産業の危機も
7月10日に動画サイトYouTubeに投稿されたひとつの動画が話題となっている。「Flying Gun」(空飛ぶ銃)というタイトルのその動画では、クワッドローター、いわゆる日本で「ドローン」とされているものが飛行しながら拳銃を立て続けに4発発砲している。
【動画】⇒http://youtu.be/xqHrTtvFFIs
動画内のドローンは4つの回転翼をもった自作のクワッドローター。機体の前方にはオートマチック式の拳銃が固定されていて、空中に停止した状態で発砲すると、その反動で一度は機体が後退するが、自立的に姿勢と高度を修正して、次の射撃を行っている。わずか14秒の短い動画だが、今年4月にあった首相官邸での落下事件以後、俎上に載ることの多い“ドローンの武装化”を技術的に実証しており、このドローンが犯罪に使われることを懸念する声が相次いだ。
しかし、世間の反応とは裏腹に、このドローンを製作したのはアメリカの普通の大学生だった。この大学生は、大学での授業の一環としてこのドローンを自作。そのドローンに拳銃を付けたのは、「個人的な趣味」のためだったようだ。この大学生に代わりメディアの取材を受けた彼の父親は、犯罪者然とした報道のされ方に苦言を呈していた。
確かに、ペイントボール弾や催涙スプレーを発射する暴徒鎮圧用ドローンはすでに発売されている。しかし、個人的な話ではあるが、筆者は、仕事柄この手の無人機を使うことが多い。その経験から考えると、この動画にあったもののような一般的に普及しているドローンが運べる搭載重量は数kgが限界で、小型の拳銃を搭載するのが精一杯。爆発物や化学兵器といった、より殺傷能力の高い物を搭載しても、やはり搭載能力の限界から、その威力は脅威にはなりえない。
実際、動画にあった拳銃付きドローンを性能的に見ても、照準装置がないため、狙った場所に射撃することはできない。都市部の人ごみに飛ばし、上空で使えば、パニックを引き起こすことは出来るかもしれないが、それは拳銃があればの話であり、ドローンありきの話ではない。
奇しくも「Flying Gun」の動画が投稿された4日後、日本でドローン規制の法案が閣議決定された。規制案自体は「総理官邸、国会議事堂、原子力発電所などの上空および対象施設の周囲300mでの飛行の禁止」「違反者は1年以下の懲役か50万円以下の罰金」と比較的ゆるい内容のものではあったが、それでも兵器並みの性能を持つドローンを規制するのはいざ知らず“ラジコンとさほど変わらない”ドローンまで、オモチャ以上の扱いで規制するのは、いかがなものなのだろうか。
現在、アメリカではグーグルやアマゾンなど大手企業が注目し、ドローンを使った事業展開が加速しつつある。一方、日本の現状を見てみると、ホビー用のドローンを展開するメーカーは増え、量販店の売り場でもだいぶ目にするようになった。しかし、今後これらの国内メーカーが、より高性能なドローンの開発に踏み出す時、一律的な法規制はそれに水を差すことになるのではないだろうか。
かつて日本では、最先端の技術を持っていたはずの燃料電池自動車が、「水素を利用している」という理由で、安全面の規制に縛られ、結局は諸外国に遅れをとることになった経緯がある。今回のドローンへの規制も、安全面の理由でさらに規制されることがなれば、同じ轍を踏みかねない。
家電量販店では、オモチャ売り場に国内メーカーのドローンが並ぶ一方、カメラなどが搭載できるプロ仕様のドローンを扱うコーナーは、海外メーカーが席巻している。“オモチャではない”日本のドローンが、海外にまで飛ぶのは、もっとずっと先のことになりそうだ。<文・写真/布留川司>
【布留川司】
アメリカで開催されるエアショーを中心に軍用機の撮影を行うカメラマン兼ライター。最近は軍艦や戦車の撮影も行ない、国内の専門誌に寄稿している
ホームページ⇒http://wolfworkbiz.blogspot.jp
一般的に普及しているドローンでは兵器になりえない
ドローンに規制は必要なのか?
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