話題の「岩下の新生姜ミュージアム」。その成功の秘訣とは?

 一風変わった新生姜関連グッズの販売や、Twitterでの社長の派手な活動が何かと話題となっている岩下食品。今年6月には栃木県に「岩下の新生姜ミュージアム」をオープンさせ、初日には約1000人の来場者が訪れた。食品会社のイメージとはかけ離れたPR施策を次々と打ち出す攻めの姿勢に注目が集まる今、岩下和了社長に施策の狙いを聞いた。

新生姜を通じた楽しい体験を提供する「岩下の新生姜ミュージアム」

 JR栃木駅から徒歩約12分。蔵の街として知られる栃木市にふさわしい蔵を模した建物が「岩下の新生姜ミュージアム」だ。約1300平方メートルの施設内には10個のアトラクションやミュージアムショップ、カフェが併設されている。カフェでは肉巻きやソフトクリームといった新生姜を使ったメニューが食べられる上に、カフェで注文した人は新生姜盛り放題といううれしいサービスも行っている。

栃木駅から歩いて約12分の「岩下の新生姜ミュージアム」。8月2日に来場者数は1万人を超えた

「岩下の新生姜ミュージアム」の前身は、岩下食品が運営していた「岩下記念館」だ。当時は、美術品を展示する施設だったが、先代が亡くなる前に展示品を処分して休館へ。土地建物の貸与や売却の話も出ていた。 「コストの面だけを考えれば閉館が正しい経営判断でしょう。だけど、父にとっては愛着のある場所でしたし、生前、名残惜しそうに記念館のことを話していたので、息子としては残したかった。新生姜の新たな可能性や、生姜の作用などを伝える情報発信の場にならできるんじゃないか。そう考えたんです」(岩下氏)  ミュージアムには「新生姜の部屋」や「巨大新生姜ヘッド」などのアトラクションが設けられており、新生姜を通して楽しさを体験できるようになっている。社内ではプロジェクトチームが結成され、社員は企画段階からアトラクション作りを任されていた。 「プロジェクトメンバーから出たアイデアは、ボツになったものも含めると全部で約120個。中には『新生姜液の出る蛇口を作る』や『本物のアルパカをピンク色に染めて飼う』といったものもありました。社員には日頃から『完成品を見た時に、作った人の名前が浮かぶくらい自分を出し切って仕事をしてくれ』と伝えています。企画として中途半端なものを展示しても意味がない。アトラクションの中には作り込みが甘すぎて、私の逆鱗に触れた物もあるんですよ(笑)」(岩下氏)  6月20日にオープンした「岩下の新生姜ミュージアム」。初日は約1000人、2日目は約1200人の来場者数を記録した。1年間の来場者数が約5000人だった岩下記念館の約半数を2日で達成してしまったことになる。

「新生姜の部屋」では、2体(本?)の新生姜がくつろいでいる。こちらの新生姜は、外側の窓ごしに写真を撮ると「いい感じ」に写るそう

「都心からだとわざわざ1時間くらいかけて、栃木まで足を運んでもらうわけですから、ここでしかできないおもしろい体験ができる施設を作りたかった」(岩下氏)  アトラクションの企画として特徴的なのは「大きさ」と「かわいさ」。まず「大きさ」を象徴するものは『巨大新生姜ヘッド』。高さ5mの立体型で、観光地の顔はめパネルのように、中から顔を出して記念撮影ができるようになっている。巨大なものは印象に残りやすい。しかももとの商品が小さいので大きくするだけでバカバカしさがプラスされる。では、もうひとつの「かわいさ」はどうか。 「女性や子どもの来場者に親しみを持ってもらいたかったんです。ミニーマウスやキティちゃんの部屋を意識して作られた『新生姜の部屋』や、アルパカのぬいぐるみがずらっと展示されているスペースなど至る所にかわいらしさがちりばめられています。それからもうひとつ、徹底したのが社員への指導です。来場者にミュージアムを楽しんでもらえるように、笑顔での応対や声かけを行うよう伝えました」  ミュージアムは、単体の施設というだけではなく、地元コミュニティとの関係を築くための拠点としても位置づけた。例えば、地元飲食店の協力を取りつけ、新生姜コラボメニューの開発もスタートさせている。 「街に貢献して街にとけ込もう。そしていつかは、街ぐるみで新生姜のファンになってもらえたら……。そんなふうに考えました。栃木市内にあるイタリアンレストランの『新生姜の釜リゾット』やJR小山駅のホームにある立ち食いそば店の『岩下の新生姜天ぷらと岩海苔のそば・うどん』など、現在10数店舗で展開されています。『新生姜の釜リゾット』は、オリーブオイルやバルサミコ酢、チーズ、塩を混ぜ合わせて食べる仕立て。新生姜のさわやかな風味がアクセントになっています」(岩下氏) “漬物”から離れたアプローチをするようになったからこそ実現した施策。飲食店側の反応もよく、店舗同士の口コミによりコラボメニューを買って出る店もある。今後は店舗数を増やすことで新生姜コラボメニューを名物化し、観光資源として際立たせたい。新生姜のさらなる可能性へ向けた展開を進めている。 <取材・文/畑菜穂子
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