ややこしい「一部23%」の消費増税で混乱するギリシャ。今後は地下経済の発展が起こる!?

 7月15日にギリシャ議会でトロイカ(EU、ECB、IMF)が要求する財政改革案が賛成多数で可決したことを受けて、日本の消費税に相当する付加価値税の増税が適用された。
小売店

小さな店は困惑しきりだ photo by Karelj(CC BY-SA 3.0)

 付加価値税の課税の対象になる物品やサービスの多くのものが、この改革案によってこれまでの13%から23%に税率が上がったのである。医療品、書物、文化関係が6%、一部食品、電気、水道、ホテルなどの料金には13%、それ以外のものには全て23%が適用される。  しかし、ギリシャでは今回の新しい税率にまだ多くの戸惑いが見られるという。例えば、<豚肉と鳥肉は13%だが、輸入牛肉には23%が適用される。では「豚肉と牛肉のミンチ肉の場合の税率はどうなるのだ?」>という質問が売る側から出ているとスペイン紙『El Pais』(http://internacional.elpais.com/internacional/2015/07/21/actualidad/1437496255_903270.html)が取り上げた。更に同紙は<対象品目が4万ある食料品を零細規模の小売屋が正しく適用税率を見分けるには大混乱を生じさせるだけだ>と言及し、ある小売業経営者の発言を取り上げて<「販売している500品目は、その大半が13%から23%に税率が上がった。レジのプログラムを換えるのに75ユーロ(1万円)払った。しかしオイルの場合にオリーブが原材料か否か、塩アーモンドは。。。適用率が13%か23%か分からない」>と困惑している様子を伝えた。

消費税上乗せではやってられない人々の苦悩

 さらに同紙は、ある自営タクシー運転手の例を上げている。その運転手は、まだ以前の税率のタクシーメーターを付けたままだという。<「まさか税率が上がったばかりで検査官に出くわすとは思えない。ましてやアテネ市内には13,000台のタクシーがあるんだから。。。新しいメーターを付けてもらうのに100ユーロ(13,500円)かかるんだ」>と答えた報じている。  ギリシャの小売市場研究協会(IELKA)によれば、今回の税率の引き上げで、年間の各家庭での出費の増加は157ユーロ(21,200円)と推定している。その理由は税率23%が適用される商品は43%で、残りの57%は以前と同様に13%の税率の中に収まるからだとしている。またこの適用率で混乱を起こす例として同協会はチーズの例を上げている。粉チーズは23%であるが、固形チーズは13%となっている。またチーズの原材料によって23%かまたは13%と適用税率が異なると指摘している。  スーパーや一部小売業者の間では消費税率の引き上げを据え置きにしている場合もあるという。新税率の適用によって売上で生じる旧税率との差額は業者の方で負担するというのだ。景気が低迷を続けている中で、更に消費税を上げると顧客を失う恐れがあるというのが理由だという。例えば、ホテルの場合は13%の税率が夏場が終わるまで適用される。その後は23%になる。これはチプラス首相がトロイカとの交渉でギリシャでは観光業が外貨収入源であるとしてトロイカを説得したからだ。

消費税引き上げで地下経済が発展!?

 ギリシャは2009年から消費税の引き上げが続いている。地下経済が盛んなギリシャでは、今回の消費税の引き上げで益々地下経済が発展すると言われている。ここでいう地下経済とは、合法・違法を問わず、公式経済の範囲外で生み出されるすべての経済取引や雇用を含み、課税の対象にならないように申告されない売買のことである。よって消費税は払わない。EUの地下経済は平均してGDPの18.6%と推定されている。日本では余り馴染みがないであろうが、脱税が盛んな国では頻繁に行なわれている。売り手も買い手もキャッシュで取り引きするのだ。そして仮にインボイスが存在しても、そこには売り手のデーターも買い手のデーターも記載されていない。単に数字が並べてあるだけである。ギリシャの地下経済はGDPの23.6%を占めているという。EUで地下経済の一番盛んな国はブルガリアの31.2%だが、このまま行けばギリシャも地下経済はますます発展していくことになりそうだ。 参照:Forum Libertas http://www.forumlibertas.com/frontend/forumlibertas/noticia.php?id_noticia=32106 <文/白石和幸 > しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなしていた。
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身