ギリシャ問題で増えたメルケル独首相の憂鬱

photo by World Economic Forum (CC BY-SA 2.0)

 ひとまずの決着を見たギリシャ問題。しかし、もう一つ見逃してはいけない点がある。ドイツのメルケル首相の存在だ。  特に今回の一連のギリシャへの対応は、メルケル首相の指導者としての政治生命を賭けねばならないまでに発展した。  ギリシャでの国民投票の結果を踏まえてドイツのメディアは一斉に「ドイツがこれ以上ギリシャに支援を続けることは断固拒否すべきだ」という意見を報じ始め、世論調査では支援反対の意見がドイツ国民の間で85%を占めるに至ったのである。  メルケル首相が率いるキリスト教民主同盟においても、彼女がギリシャのユーロ圏への残留を決めると、彼女の党内での信頼は崩れ始めるとも言われているほどだ。  EU内でも、ギリシャへの支援金延長策に強い反対の姿勢を示しているフィンランド、オランダ、スロベニアは、メルケル首相がギリシャの要求に一歩も譲歩しないはずだと信頼していたという。また、ドイツ主導の緊縮策をこれまで受け入れて来たポルトガルやスペインも、ギリシャに対しドイツが寛容な姿勢を示すことに強く反対していた。

メルケルが支援の継続に拘った理由とは?

 そんな状況下でなぜメルケルは支援の継続を決めたのか?  その理由を推測する一つの材料が、ギリシャのバルファキス前財務相が7月10日付の英国紙『The Guardian』に寄稿した記事だ。 〈2010年のギリシャの危機の時に救出策として二つの選択肢があった。「債務再編と経済改革を実行すること」、或いは「歳出削減と支援金の提供」だった。そしてドイツ主導のユーロ圏は後者を選んだ。何故なら前者だとドイツの銀行など債権銀行に巨額の損失が発生するからだ。 「EUの団結を強調する」という名目で支援金がギリシャに提供された結果,ギリシャは更に負債を抱え込むことになった〉というのだ。  一方、ドイツ主導のユーロの運営に批判的なのがイタリアのロマノ?プロディ元首相だ。  彼はまたEU委員会の元委員長でもある。プロディ氏はメルケル首相のリーダーシップを常に批判して来た。スペイン紙『ABC』のインタビューに応えて、〈「メルケルはドイツ選挙民からの支持を常に優先させた。その為にEU危機への解決に遅れを生んだ」〉と批判している。また、1954年に巨額の負債を抱えていたドイツに、その半額が減免されたことについて、〈「当時は純粋な常識がヨーロッパで通用していたからで、負債が減免されたことで、ドイツは欧州の発展に寄与することができた」〉と語り〈「ギリシャ負債の減免もされるべきだ。何故なら、現状のままだと債務の完済は不可能だからだ」〉と述べている。  国内、EU内にそれぞれ批判者を抱え、ギリシャ問題はメルケル首相にも大きく影を落としているのだ。 <文/白石和幸 photo by World Economic Forum on flickr (CC BY-SA 2.0)> しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身