「ゲームセンターあらし」作者が語るマンガとゲームの関係の変化――検証「ハイスコアガール」著作権騒動【2】
2014.08.18
「ハイスコアガール」問題におけるスクウェア・エニックスとSNKプレイモアのやりとりは刑事告発という形になり、その詳細が明らかになるのは法廷においてという可能性が出てきた。もっともその他の会社とのトラブルは聞こえてこない。今回告発されたケースだけが特殊だったのだろうか。そもそもマンガ作品にゲームを登場させるとき、通常はどのようなやりとりがあるのか。
⇒すがやみつるが語る「マンガにおける著作物の使用許諾」――検証「ハイスコアガール」著作権騒動【3】
<取材・文/黒木貴啓 >
今回の件を受けて、ある作家がTwitterで反応した。
「『ゲームセンターあらし』の件でご心配いただいているようですが、文庫化や復刻のたび、出版社の法務部門がメーカーさんに確認を取ってくれています」
マンガ「ゲームセンターあらし」を1979~1983年に小学館の児童向け月刊誌「コロコロコミック」で連載した、すがやみつる氏だ。
同作は、主人公・石野あらしがゲームセンターやゲーム大会を舞台にライバルと熱戦を繰り広げる物語。タイトーの「スペースインベーダー」やナムコ(現・バンダイナムコ)の「パックマン」など実在したゲームを、あらしが現実離れしたスタイルでプレイする。
2000年の太田出版からの復刻版や、2011年にアニメ作品がメディアファクトリー(現・KADOKAWAメディアファクトリー)からDVD化されるなど、連載終了後も商品化されている。すがや氏によると、著作権についてはその都度各メーカーへ確認が取られるという。
「80年頃のゲームセンターは不良のたまり場だったように、ゲーム業界のイメージが悪かった。マンガはそのイメージの改善につながると思ってもらえたんですね。私の取材に対しても非常に好意的でした。ナムコやタイトーといった大手も快く受け入れ、開発者にも直接会わせてもらっていました」とすがや氏は話す。
「あるゲームショーへ取材に行ったとき、ゲームメーカーの営業さんに両手で握手されたことがありました。ゲームセンターに設置されたゲーム機からお金を回収する仕事をされていたのですが、子どもにどんな仕事をしているか言えなかったそうです。それが学年誌を出版する小学館の『コロコロコミック』という教育的イメージのある雑誌に、ゲームセンターが登場する『あらし』が載ってゲーム業界でも話題になった。お父さんはこういう仕事をしていると『あらし』を子どもに見せたと、営業さんも喜んでいました」(すがや氏)
しかし、そうした共存共栄的な関係は80年代始めまでだったと話す。
「転機はやはり、家庭用ゲーム機として大ヒットした『ファミリーコンピューター』の登場だと思います。マンガの協力を借りなくても回していけるだけの力をもち、立場が逆転した。以前は気にせず作品に使えた著作物も、許可が必要になるなど、厳しくなっていた気がします」(すがや氏)
著作物を使用しづらくなったのは、ゲーム自体が物語性を持つようになったという理由も大きいという。黎明期には「インベーダー」など単純な動作を繰り返していたシューティングゲームでも、背景が綿密に設定された「ゼビウス」のように、世界観を持った作品が増えていった。
「ゲームが物語性や世界観――つまり著作物的な性格を持った作品になると、題材にするときもその世界観を意識せざるを得ない。ヘタに改変すると作り手に対して失礼に当たる。ある種の描きづらさは感じるようになりましたね。『あらし』は主人公がゲームに絡んで、マンガのオリジナルのストーリーにどんどん組み込んでいってしまうタイプ。世界観のある作品だと、物語性だけでなくゲームのキャラクターもいじりづらい。特に『ゼビウス』を見たときは、そこに哲学や思想性みたいなものまで感じられ、もう『あらし』もおしまいかなという印象をもちました」(すがや氏)
こうした関係の変化によって、マンガ業界ではゲーム側のキャラクターを借りて使う、コミカライズが主流となっていく。
「『あらし』のような第三者的なキャラクターがゲームに絡む作品は少なくなっていったと思います。ゲームメーカーの力も強くなって、作品をいじられるのを嫌がって使用をOKしないケースも多くなっていったのでは」(すがや氏)
ある種のWin-Winが成立した黎明期から、手を組むにあたって「権利」が存在感を増していく成熟期へ。それは互いの力関係の逆転をも意味していた。
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