予断を許さぬギリシャ情勢。チプラスの「賭け」の行方は…

ギリシャ

photo by Trine Juel on flickr(CC BY 2.0)

 チプラス首相はユンケルEU委員長、ラガードIMF専務理事とドラギーECB総裁に条件付きでトロイカの改革案を受け入れることを伝える書簡を6月30日付けで送っていたことをフィナンシャル・タイムズ紙が報じた。  筆者が把握したその書簡に書かれていた主な条件は以下の通りである。 *観光業に適用する消費税を13%にすること(トロイカは観光業も23%を要求)。 *離島での消費税は30%の特別割引を適用。 *定年支給者を67才に引き上げるのを今からではなく、10月から適用。 *最低額の年金受給者への特別手当(EKAS)は2019年末まで維持。 *軍事費削減を2016年に2億ユーロ(280億円)、2017年に4億ユーロ(560億円)とする(トロイカは2016年も4億ユーロの削減を要求)。  チプラス首相がトロイカの改革案を受け入れることに決めた背景には、現実主義に戻り、2017年までにギリシャは債務返済などで290億ユーロ(4兆600億円)の資金が必要であるということ。そしてメルケル首相がチプラス首相に最後に提示した案には350億ユーロ(4兆9,000億円)の支援パッケージと、10月に債務の減免と再編を検討する用意があることが含まれているからだという。  メルケル首相のこの寛大とも思える姿勢には、与党内でも反対を表面する議員もいたという。ギリシャにとって、債務返済の負担はこれからも続き、ギリシャは欧州金融安定基金(EFSF)からの資金供給も受けることを検討しているという。  上述フィナンシャル・タイムズ紙の内容が事実であるとすれば、7月5日に予定されている国民投票の意義は薄れることになる。  しかし、チプラス首相は7月1日の国民に向けたテレビ演説で、「国民投票では『NO』に投じることを希望する」と述べた。この投票で「NO」が過半数を取ると、ギリシャのユーロ圏からの離脱は避けられないだろうと言われている。何故なら、ユーログループでは、それはトロイカの改革案を受け入れる姿勢がないことを意味するもので、ギリシャ国民がユーロ圏からの離脱を希望していると、受け止めるからだ。

国民に「国民投票ではNOを」と呼びかけたチプラスの目論見

 ではなぜチプラス首相はトロイカに条件付きでの改革案受け入れを書簡で送る一方で、国民には「NO」を呼びかけたのか? 彼はユーロ圏から離脱する気なのか? どうやら彼の中ではそういうわけではないらしい。  というのも、6月29日、彼は2年振りに再開された国営放送に出演して「ユーログループが我々を追い出すとは思えない。その代償は非常に高いものにつくからだ」述べているのである。ギリシャが抱えている負債3150億ユーロ(44兆1,000億円)の80%はトロイカが債権者となっている。チプラス首相は、ギリシャがユーロ圏から離脱すれば、債務不履行となり、債権者は債権額が取り戻せなくなるという恐れをもっていると考えているようだ。そして、「NO」が過半数を取れば、トロイカとの再交渉はギリシャに有利に働くとチプラス首相は考えていると憶測されている。  スペイン紙エクスパンシオンによれば、先週末までは「NO」の支持者が57%であったが、現在46%に落ちている。「YES」支持者は30%から37%に上昇している。その一方で、シリザ支持者の間では「NO」が77%、「YES」が15%だという。  メルケル首相は国民投票の結果が分かるまで如何なる判断も下さないという姿勢だ。ショイブレ独財務相は、先週までのトロイカの改革案は既に無効になっているという意見を表明している。即ち、新しく交渉に臨むのであれば条件は更に厳しくなるという考えでいるという。  国民投票の結果が判明するまで、トロイカの方でも具体的な前進は望めない。ユーログループの中にドイツがいる限り、ギリシャからの誘いには乗らない。仮にドイツがユーログループに加わっていなければ、ドイツのいないユーログループは既にギリシャの執拗な交渉の前に折れていたであろうと一部メディアの間で言われている。しかも、米国政府を始め、世界の多くの経済学者らの意見は緊縮策で国民は厳しい窮状を余儀なくさせられているとして、ギリシャに味方した見方も増えつつある。  ギリシャの関わる動きは毎日変化している。国民投票の行方は果たしてどうなるのか……。 <文/白石和幸 photo by Trine Juel on flickr(CC BY 2.0)> しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身