安倍政権を支持する文化人を使い、政権の発信力強化を目指すために、安倍晋三首相に近い若手議員が立ち上げた勉強会「文化芸術懇話会」の初会合が25日、自民党本部で開催された。既報の通り、この会合については、参加者たちの言論弾圧ともとれる発言が物議を醸している。以下、とりわけ悪質な発言を引用する(出典:
朝日新聞)
・講師として呼ばれた作家の百田尚樹氏:
「本当に沖縄の二つの新聞社は絶対つぶさなあかん。」
・長尾敬衆院議員(比例近畿ブロック、当選2回):
「沖縄のゆがんだ世論を正しい方向に持っていくためには、どのようなアクションを起こされるか。左翼勢力に完全に乗っ取られているなか、大事な論点だ」
もはや、開いた口がふさがらない悪質さと幼稚さだ。
「憲法尊重擁護義務」(憲法99条)を負う国会議員が、同じく憲法で保障された「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由」(憲法21条)をないがしろにする発言をするなど、到底許しがたい。
この点はこの点として厳しく糾弾されるべきだが、この連載では、「やっぱり案の定、こいつらもあの連中か!」という点を指摘しておこう。
百田尚樹は「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の代表発起人
まずは、「沖縄の二つの新聞社は絶対つぶさなあかん」と発言した作家の百田尚樹氏。
「美しい日本の憲法をつくる国民の会」のパンフレット
剽窃と欺瞞の多いこの人物について言及することは筆が汚れるので、あまり言及したくはない。そこで、画像だけを引用しておこう。
これは日本会議が改憲運動のために立ち上げた「美しい日本の憲法をつくる国民の会」(
連載第一回参照)のパンフレットだ。代表発起人たちの顔写真が並ぶ中、右下に百田氏の写真も使われていることがお分かりいただけるだろう。
百田氏はタレントでしかないため、日本会議や「一群の人々」(連載
第7回参照)にとっては単なる人寄せパンダにしかすぎないという面もあろう。
しかし、見逃せないのが、「文化芸術懇話会」の呼びかけ人である木原稔議員の存在だ。
木原議員は当選3回・熊本一区選出。日本会議の熊本支部は多久善郎という人物が理事長を務める。木原議員の活動報告ブログには、この多久善郎と活動を共にする姿が繰り返し報告されている。
●「日本会議熊本 多久善郎 理事長(濟々黌47年卒)を講師に迎え、「皇室典範の改正問題」について講演をいただきました。」
●「自民党熊本県連青年局で勉強会を開催。日本会議熊本の多久善郎理事長から「何故今憲法改正か」という講話をいただきました。」
この事実からうかがい知れることは、「地元有力支援者と活動を共にしている」という点のみで、何ら問題はない。ただし、この多久善郎なる人物、単なる「日本会議の地方支部の理事長」というだけではく、日本会議の事務局を担う右翼団体・日本青年協議会の理事長を務め、「一群の人々」の中で極めて重要な位置を占める人物の一人なのだ。
また、木原稔議員は、「熊本県親学推進議員連盟」を立ち上げ、「親学」なるものの提唱者・高橋史朗明星大教授を招いて講演を開催させるなどしている。(画像は木原議員の
Tweet)この高橋史朗氏も、かつて日本青年協議会に所属していた経歴を持つ「一群の人々」の中心人物の一人だ。
このように、「一群の人々」と行動をともにし続ける木原議員の姿はもはや「中の人」といっても過言ではなかろう。
この日本青年協議会をめぐっては、「文化芸術懇話会」で「沖縄のメディアは左翼に乗っ取られている」と発言した、長尾敬衆院議員についても言及しておく必要がある。
長尾敬衆院議員は、自身のブログで
「日本青年協議会(日本会議の前身)のメンバーでもあった私は」と、この右翼団体に所属していた経歴を臆面もなく告白している。
また、日本青年協議会の創立者であり現会長でもある椛島有三氏についても
「尊敬する椛島氏」と素直に尊敬の念を吐露してもいる。
つまり長尾議員は、極めてあけすけに、自身がかつて日本青年協議会の構成員であったことと、いまだにこの右翼団体にシンパシーを抱いていることを表明してしまっているのだ。
このあけすけさは、もう、呆れるしかない。
近代的な民主主義の根幹を真っ向から否定するような発言が飛び出した「文化芸術懇話会」だが、出席した百田氏、木原議員、長尾議員のこのような来歴をみてみると、この議員勉強会には「日本会議およびその事務局たる日本青年協議会の代弁機関」という側面を有していると断ぜざるを得まい。
そして安保法制議論のドタバタからもうかがい知れるように、「文化芸術懇話会」のみならず、自由民主党全体が、「表現の自由」や「立憲主義」などの近代的民主主義の諸原則を軽々しく踏みにじってしまう、極めて野蛮で幼稚な政党に変質してしまった。
筆者はこの「自民党の変質」の大きな原因は、日本会議と日本会議の中核を支える「一群の人々」の存在にあると考える。
本連載では、これからも、日本会議と「一群の人々」の本拠地である日本青年協議会の実態について、レポートを重ねていく。
<文/菅野完(Twitter ID:
@noiehoie)>