野菜価格乱高下の理由は天候不順だけではない
天候不順による雨不足で高騰が続いていた野菜の値段だが、ようやく落ち着きを取り戻しつつあるようだ。
農林水産省が毎週実施する野菜小売価格緊急調査(6月8日~12日)によれば、対象4品目(キャベツ、キュウリ、レタス、トマト)がすべて、前週比で安値となっている。その結果、キュウリ(前週比4%安)がほぼ平年並みに、レタス(前週比24%安)とトマト(前週比5%安)は平年比で1割高程度の価格となり、特に高かったキャベツ(前週比9%安)にしても、平年比で3~4割高程度までに落ち着いてきた。
日本は世界5位の農業大国』『TPPで日本は世界一の農業大国になる』など多数。
まだ全体的に高値水準で、ここしばらくはその状態が続きそうだが、農林水産省によれば、梅雨の本格化とともに6月末には平年並みに回復する可能性があるとのこと。ひところはキャベツ1玉400円なんて時もあっただけに、庶民にとっては一安心といったところだろう。
ところで、なぜ野菜は高騰したり値崩れしたりと価格が乱高下するのか。その最たる理由が、前述したように天候不順で需給バランスが崩れる事にあるのは間違いない。しかしながら、日本の農業を取り巻く状況が、少なからず影響を及ぼしてしている面もある。
例えば、日本人の野菜消費量が年々減少していること。一人あたりの年間消費量は、平成5年に105kgあったものが平成25年には92kgと、10kg以上落ち込んでいる。しかも、人口はこれからも減少する一方。つまり、需要の減退による野菜生産の全体的な縮小が、いざ不作となった際に品不足を助長し、価格の高騰に直結しやすい状況を生み出しているとも考えられるのだ。
農業ジャーナリストの浅川芳裕氏は次のように語る。
「需要が減少している上に中国などからの野菜輸入も増えている現在の日本で、野菜生産で大きな利益を上げる機会は極めて限られています。そのため、高値を狙って収穫時期をワザとずらす、投機的な作付けをする農家もでてくる。もちろん、日本は自由主義経済の国なので、儲けようとすること自体は責められるべきことではありません。ただ、需給を見誤るなど齟齬が生じたときに、そのしわ寄せが何の関係もない消費者にいくことになることも事実です」
このようなリスクを抑えるためにも、需要が安定的に伸びて農業経営に展望が持てる状況を作ることが望ましいのだが、そこで浅川氏は一つの提案をする。
「公設市場に外国人バイヤーを受け入れてはどうか。経済成長と人口増加が続く新興国の需要を取り込むべきです。現在、外国籍の企業には買参権が認められていませんが、『買占めが起きる可能性があり、国民に食糧を安定供給ができなくなる』というのが政府の言い分です。しかし、買い占められるほど今の日本の野菜に魅力があるなら、日本の農業にとってはむしろ良い話。それならばと全国の農家がどんどん増産するはずです。また、日本では価値の低い規格の野菜を買ってくれたり、『こんな野菜を作ってくれないか』といった新たな需要が生まれるかもしれない」
このような国外のニーズを学習して対応できるようになれば、農家の売上増につながる可能性は高い。すでに特産のレタスを台湾などに輸出して大きな利益を上げている、長野県川上村のような成功例もある。
「市場が国内外に拡がって全体の生産量が増えれば、農家が潤うだけでなく、国内市場での野菜の乱高下の幅も小さくなる。消費者にとってもメリットがあるのです」(浅川氏)
ところが、実際には農家の“やる気”の芽を摘み、日本の農業の“じり貧”を助長するような農業政策がとられ続けていると、浅川氏は指摘する。次回はその実状を解説していきたい。
<取材・文/杉山大樹>
浅川 芳裕(あさかわ・よしひろ) 農業ジャーナリスト 1974年山口県生まれ。カイロ大中退。著書『ハッシュタグ