熟議を尽くすべき時に出る安易なデマの危うさ
5月26日からスタートした「安全保障関連法案」に関する国会審議では、他国の領域で集団的自衛権を行使する可能性や、法整備によって自衛隊員のリスクが高まるのかどうかなどを巡って、激しい論戦が交わされている。
衆議院が公開している「衆議院インターネット審議中継」には、「平和安全特別委員会」における後藤祐一議員の質問が全て残されている。このビデオアーカイブによると、5月28日開催「平和安全特別委員会」における後藤祐一議員の発言要旨は以下のとおりだ。
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政府は、「ホルムズ海峡が機雷封鎖され原油の輸入がストップすれば、例えば灯油が供給できなくなり、北海道で凍死者が出る」ような事態を「存立危機事態」と想定しているが、この存立事態であると判断する基準はなにか?
自民党の高村議員は、日曜討論で、「凍死者が続出するような事態を存立危機事態」と表現していたが、その認識で間違いないのか?
いずれにせよ「原油輸入の途絶」が「存立危機事態」の定義なのかどうか?もしそうなら、「石油を求めて戦争をする」とも言えるのではないか?
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この質問内容への賛否はさまざまあるだろう。しかし、彼が言ってもない発言が勝手に捏造されて、ネットを駆け巡ったのだ。
この発言がどのように捻じ曲げられてデマになったのか?
この発言を曲解して「後藤議員は『石油は燃やせば暖かいもの』と発言した」という見解が最初にネットに現れたのは、「2ちゃんねる」という線が濃厚だ。
前述の質問から約5時間後の28日19時51分、2ちゃんねる「極東アジアニュース版」の「岡田民主党等研究第219弾」なるスレッドに、「(後藤祐一議員は)石油は燃やすとあったかいものです!そんな燃やすとあったかいだけの石油なんかのために戦争するなんて、世界に対して恥ずかしいと思わないんですかーーーッ!(と発言した)」と指摘する書き込みが現れた。
この書き込みは当該のスレッドで人気となり、次々と後藤議員を批判する同調意見が書き込まれた。しかし、反響は同日22時頃終わり、2ちゃんねるでの騒ぎは一旦収束した。
ところが、翌29日11時22分、この「2ちゃんねる」の書き込みをそのままTwitterに引用する輩が現れた。最初に引用したtweetは12件のリツイートにとどまったものの、およそ30分後に別ユーザーが、さらに強く後藤祐一議員を糾弾する口調のtweetを投稿する。
初出のtweetと2つめのtweetの違いは、末尾に「あんたが一番恥ずかしいよ……。」と、後藤祐一議員への人格批判とも取れる発言がついていたことだ。人格批判口調のこのtweetは、瞬く間に600件ものRTを獲得し、デマが一挙に拡散する結果となった。
600件もリツイートされた当該発言が多くの人の目にとまった結果、安倍政権に同調的な著名人や言論人まで同調意見をtwitterに投稿し、「後藤祐一議員は『石油は燃やせば暖かいだけ』なるトンデモ発言をした」というデマがあたかも真実であるかのように、SNSを席巻する結果となった。
今回、捏造された後藤祐一議員の発言は国会審議の中で発せられたものだ。当然のことながらその発言は、議事録に収められる。また、衆議院ではほぼリアルタイムで審議の様子を動画公開している。つまり、事後検証は、簡単に行えるのだ。しかし発言を捏造した者も、偽情報の拡散に寄与した者も、この簡単な事後検証を行っていない。いわば「すぐばれる嘘をついている」状態だ。
さらに、注目すべきは、このデマのTwitterでの初出がそれほど拡散せず、後藤祐一議員への人格批判ともとれる文言が加わった途端に急速に拡散した点だ。
ある議論に対し、反対意見を言いたいならば普通に主張すればよい。しかし、真摯に議論を重ねるときにも関わらず、誰かを吊るし上げるチャンスとみれば、簡単な検証作業さえ加えずに、喜んで不確かな情報を流し、ファナティックに拡散してしまうことは、その課題について賛否どちらの意見に立つ人にとっても、よい結果に繋がるとは到底思えないのだ。 <文/HBO取材班>
そんななか、民主党・後藤祐一議員の国会質問に関し、悪質なデマがTwitterを中心にSNSで広がった。SNSというツールの特性上このデマは瞬く間に広がり、一部、メディア関係者までこのデマの拡散に手を貸すなど、影響は甚大だ。
事実関係の確認
デマの発生場所は「2ちゃんねる」
「2ちゃんねる」の捏造情報がTwitterに飛び火
デマを産み育てる「ネットの闇」
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