消費税軽減税率の対象品目選定に各業界が「オレもオレもの大合唱」
消費税率が10%に引き上げられる2017年のタイミングで「軽減税率」導入が検討されている。消費税のような定率の課税は、低所得者ほど税の負担感が増す。軽減税率はこの「逆進性」をやわらげるため、生活必需品の税率を低く抑える仕組みだ。欧州各国で導入されていて、国内での検討も本格化してきた。
軽減税率 対象の線引きはわかりやすく」では、上記のような食品に対する軽減税率の話をしていたところから、唐突に次のような落し込みで結んでいる。
「欧州では大半の国が、新聞や書籍に軽減税率を適用している。民主主義や活字文化を支えるため、日本でも対象とすべきだ。」
……。課金や課税と情報の取得行動の因果関係についての問題提起もなしに、唐突に「民主主義」「活字文化」という耳障りのいい言葉を持ち出すようでは、それこそ活字文化の未来が心配にならないか。だいたい、「社会の公器」であるはずの新聞の社説の落とし込みがブレたら、こちらのオチまでブレてしまうではないか。
ほら、言わんこっちゃない。
<文/松浦達也>
まつうら・たつや/東京都生まれ。編集者/ライター。「食」ジャンルでは「食べる」「つくる」「ひもとく」を標榜するフードアクティビストとして、テレビ、ラジオなどで食のトレンドやニュース解説を行うほか、『dancyu』などの料理・グルメ誌から一般誌、ニュースサイトまで幅広く執筆、編集に携わる。著書に『家で肉食を極める! 肉バカ秘蔵レシピ 大人の肉ドリル』(マガジンハウス)ほか、参加する調理ユニット「給食系男子」名義で企画・構成も手がけた『家メシ道場』『家呑み道場』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)はシリーズ10万部を突破
今月行われた自民、公明両党の与党税制協議会では、低い税率を適用する食品の範囲について、「食料品すべて」「生鮮食品」「精米のみ」の3案に絞って検討する方針を確認したという。最終的な落としどころはともかく、この幅のなかで議論を深めていこうということのようだ。
もっとも「軽減税率」の導入については、議論百出の趣がある。前述した「逆進性の解消」についても、4月の国会では民主党の議員から「高額所得者ほど負担軽減額が大きくなる」と安倍総理に質問が飛んだ。「負担軽減額=負担感」とは限らないが、対象品目の設定によっては逆進性が発生する可能性はある。実際、安倍総理も「高所得者に恩恵が及ぶという懸念があることは承知している」と答弁した。
対象品目の選定も悩ましい。例えば「生鮮食品」の選定にしても、現行のJAS法では「牛ひき肉」「豚ひき肉」は生鮮食品だが、「合いびき肉」は「加工食品」として扱われる。当然、ハムやベーコン、ソーセージも加工食品だ。しかし高額なブランド牛は生鮮食品となる。加工食品であるパンや納豆に軽減税率が適用されずに、神戸牛や松阪牛に適用されるとしたら、当然違和感は残るだろう。
軽減税率導入がいよいよ具体化するステージに入ってきたことで、各業界団体による懸命の活動にも熱が入ってきた。11日には自民党衆参両院議員80人以上が参加する「パン産業振興議員連盟」が設立された。20日に行われた日本パン工業会の会見で、飯島延浩会長は同連盟の協力を得ながらパンの軽減税率品目入りを目指すと語った。ドラッグストアの団体も大衆薬などへの軽減税率適用を求めている。
いっぽうで導入に反対する業界もある。食品スーパーの団体である日本スーパーマーケット協会や、スーパーの業界団体、日本チェーンストア協会は「対象範囲の線引きが不明確になり、結果として新たな不公平と混乱を生む」などの理由で反対を表明している。実際、食品を扱うスーパーは税率の異なる複数商品を扱うとなれば、システム導入や従業員への教育費などさまざまなコストがのしかかってくる。
国会でも業界からの陳情合戦や企業団体献金の温床となる危険が指摘されたが、こうした各業界の声からもその一端は伺える。「利益誘導」とまでは行かずとも、誰しも不利益はこうむりたくはないはずだ。ポジショントーク的な主張や意見が渦巻くカオスを関係各所がどうさばくのかも、今後要注目である。
もっとも関連報道を見ていて、そのポジショントークの極みとも言えるコメントを読売新聞がしていたのは、さすがに意外だった。5月23日付(オンライン版)の社説「ハッシュタグ